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2023年度研究助成プログラム 選後評

選考委員長 中西 寛
京都大学大学院法学研究科 教授

今年度は「つながりがデザインする未来の社会システム」をテーマとする研究助成プログラムの3年目の募集選考を行いました。主題に変更はありませんが、今年度はこれまで以上に幅広い問題関心に基づく提案が増えることに期待して「ニューノーマル時代に再考する社会課題と新しい連帯に向けて」という副題を省きました。
今日、人間の社会的つながりも、人間と自然環境の関係も、人間がテクノロジーによって作り出す人工世界のありようもかつてない変化を経験しています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって私たちはそれまで当然と思っていた人間社会のつながりのあり方が短時間に大きく変化する衝撃を経験しましたが、新型コロナの感染症法上の取り扱いが5類へと移行し、街のにぎわいが流行前の状態に戻ったように見えても、変化の流れは続いています。世界規模での国際的緊張の高まりやグローバル・サウスの台頭、社会における人口構成の変化やジェンダーに対する意識の変化、生成型AIの実用化など情報社会化の進展がもたらす可能性と挑戦など、人間は過去の延長上では推し量れない数多くの課題と向き合って行かなければなりません。将来どのような社会が出現するか、あるいはどういった社会が望ましいのか、学問的、理論的な解答が見つからずとも具体的な課題に取り組んでいく必要があります。こういう観点から、本研究助成では学術的な意義だけでなく、社会的還元を意識した提案を重視しています。
今年度は100件の応募があり、10件に対して助成を決定しました。一昨年の130件には及びませんでしたが昨年の82件からは増加しました。研究代表者の男女比率は昨年同様ほぼ半数ずつであり、また約2割弱が英文での応募でした。申請の質は平均して高くなっており、また分野面で昨年に比べて多様化していると感じました。特に国際的な課題に取り組む研究が複数あったことも印象的でした。今後もこうした傾向が続くことを期待します。特に、身近な課題に取り組む場合でも一般化できる知見につながることを意識し、また、地球規模の問題解決につながるような大きなビジョンをもった提案も望みます。採択された研究からいくつか紹介します。

D23-R-0028 山梨裕美(京都市動物園生き物・学び・研究センター主席研究員)
「動物園でかたちづくる人と動物の共生の形―動物福祉の評価と実践」
近年では、人と動物の関わりにおいて、両者をより平等に捉える動物福祉(AW)概念が重視されるようになっていることを踏まえ、日米英3国の動物園で共同しつつ、文化を超えて客観的な動物の心的状態に関する客観的評価の方法を検討する事で動物福祉の向上を目指します。

D23-R-0036 石川満佐育(鎌倉女子大学児童学部子ども心理学科准教授)
「発達支援アプリの導入効果に関する研究―発達支援アプリは学校現場にどのような影響をもたらすのか」
学校での生徒発達支援について、政府は教職員チームによる発達支援を重視するよう「生徒指導提要」を改訂した。この生徒指導提要に対応した発達支援アプリを開発し、中学校での実験的な導入を踏まえてその効果を測定し、新たな教育支援体制の構築を目指します。

D23-R-0026 中澤未美子 (山形大学学術研究院准教授)
「『本当に多様な働き方を促進できる職場』についての研究―障害者雇用の現場でロボットと創る」
健常者と精神(発達)障害者の間に職場環境での意思疎通に困難がある現状を踏まえて、職場環境に活用される例がみられるペット型ロボットを導入することで職場での対話を記録して分析し、職場での意思疎通の改善を図るプロジェクトです。

D23-R-0057 原朋弘 (武蔵大学経済学部経済学科専任講師)
「脆弱な社会における民族融和と市場分断の緩和:ターゲティングとフィールド実験」
開発経済学分野の研究者と紛争解決に取り組む実務家が協力して、ケニアにおけるソマリ系住民を対象に、過激化リスクの高い人びとに職業訓練を提供することが民族間の融和促進にどの程度つながるか、効果測定と幅広い応用に資することを目指します。

(括弧内は2022年度の数字)

応募件数 助成件数 採択率
100件(82件) 10件(9件) 10.0%(10.9%)
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