公益財団法人トヨタ財団

  • 研究助成プログラム

2021年度研究助成プログラム 選後評

選考委員長 中西 寛
京都大学大学院法学研究科 教授

トヨタ財団の研究助成プログラムは本年度から新たに「つながりがデザインする未来の社会システム─ニューノーマル時代に再考する社会課題と新しい連帯に向けて─」をテーマに掲げて募集を開始しました。

「つながり」をキーワードとして

昨年から世界を覆っている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は現代社会にとって予想もしない挑戦をもたらしています。現代社会を機能させ、繁栄させてきた緊密な社会的ネットワークが突如として強制的に停止され、社会のいたる所で分断や孤立が生み出されています。世界中がこの挑戦を受け、正解が分からないままに模索を続けています。 しかし改めて考えると、私たちが今経験している分断や孤立はCOVID-19だけに由来するものではなさそうです。むしろ潜在的に存在していたが目に見えなかった深刻な問題をまのあたりにつきつけたと言えるかも知れません。たとえば少子高齢化による独居老人の孤独死の問題や、SNSでの通信が人々の心理や行動に与える影響の大きさは、現代社会における分断や人間関係のあり方が大きく変化しつつあったことを示唆しています。

そこで本助成は「つながり」をキーワードとして設定し、日本に拠点を置く若手研究者を代表者とする研究グループを対象として、COVID-19の状況下で生まれたり試みられようとしたりする新たな社会システムに関する研究を支援することとしました。幅広い形でテーマを設定してさまざまな分野からの研究を歓迎すると共に、純然たる学術研究よりも広い意味での社会的実践につながりうる成果が期待できることも重視しました。

今回は130件の応募があった中からから9件を採択しました。分野的には社会学、医学、心理学などの関連分野が比較的多かった印象ですが、研究機関、企業、NPOなどさまざまな所属の方々から多様かつ独創的で興味深い内容の応募があったことは初年度として十分以上の成果であったと評価しています。採択された研究からいくつか紹介します。

採択案件の紹介

[企画題目]24時間介助が必要な重度身体障がい者の就労にむけた実現戦略 ─ 介助付き就労を阻む社会システムの合理性を運動論から問いなおす
[代表者]嶋田 拓郎(一般社団法人わをん理事・事務局長)
COVID-19によるテレワークの普及は、通勤が一つのハードルであった重度身体障がい者にも就労の可能性を開くことになりました。しかし重度訪問介護制度では経済活動は認められず、重度身体障がい者の就労機会が社会制度面で制約されている現状があります。介助付き就労という新たな社会経済活動の形態の実現に向けた提言を期待できる研究です。
[企画題目]ヒトとモノの承認関係を手がかりとする「自宅」環境の包括的研究 ─ 環境美学、建築・都市計画論、芸術実践の融合的アプローチから
[代表者]松山 聖央(武庫川女子大学生活美学研究所 嘱託助手)
COVID-19の明白な影響の一つは自宅という環境がもつ意味が大きく変わった点でしょう。単なる感染対策の 観点だけではなく、自宅をヒトとモノが親密な関わりを築く場としてとらえ、環境美学や建築、都市工学などを組み合わせて、新たな生活様式と価値観を創造しようという研究です。
[企画題目]コロナ禍での交流減・政治不信により深刻化した若者の政治離れ解消のためのDX活用による市民参加型地方自治プロセスの研究
[代表者]佐藤 理恵(任意団体ミライ+コロナ代表)
かねてから若年層の政治離れは日本の深刻な課題であり、その対策も意図していた住民参加型のまちづくり・地方自治という枠組みもCOVID-19で停滞を強いられています。その一方でDX化の重要性が急速に認知されています。この流れを活かして若者の政治参加を活性化する方策を、ヨーロッパの先行事例を参照しながら探る研究です。

(括弧内は2019年度の数字)

応募件数 助成件数 採択率
130件(152件) 9件(12件) 6.9%(7.9%)
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