HOME  >  特定課題  >  2019年度 外国人材の受け入れと日本社会 選後評

選考委員長 田中 明彦

特定課題「外国人材の受け入れと日本社会」の選考について


2019年度特定課題「外国人材の受け入れと日本社会」助成プログラムは、以下の5つの助成課題について、調査・研究を行い、かつ助成期間中に、その課題解決や状況の改善に向けた仕組みや制度構築に取り組む、あるいは外国人材受け入れに関する諸課題についての知見を深めるプロジェクトを助成対象として、公募を行いました。

  (1)外国人材が能力を最大限発揮できる環境作り
  (2)外国人材の情報へのアクセスにおける格差の是正
  (3)ケア・サポート体制を担う人材と既存資源の見直し
  (4)高度人材の流入促進
  (5)日本企業の海外事業活動における知見・経験からの学びと教訓

公募期間は、2019年10月1日から11月30日で、その間に90件の応募がありました。その間、事務局が3回説明会を開催しました。3名の選考委員による応募書類の検討・評価をへて、2020年1月30日の選考委員会で、7件(総額4500万円)を助成対象候補とすることが決定されました。今年度の助成予算総額は4,000万円でしたが、選考委員会として議論した結果、初年度のプログラムとしてできるだけ多くの課題を含む案件を採択したいと考え、500万円増の4,500万円を候補といたしました。
 以下にそれぞれの助成対象候補プロジェクトの概要を記します。

D19-MG-0016  河野 文子 (京都大学大学院医学研究科健康情報学 学生(博士課程))
「日本の医療が東南アジアのイスラム圏出身者にもより良いものとなる為に―混合研究による双方向コミュニケーション戦略と社会実装」
外国人にとって安心して利用できる医療機関は、外国人との共生のため不可欠の環境です。医療機関を受診するにあたって、宗教は重要な要因です。増加しつつあるイスラム教徒の外国人が安心して受診できる「ハラール」な医療環境を整備することがこのプロジェクトの目的です。課題(3)に貢献することを通して課題(1)にも貢献することが期待されます。

D19-MG-0031  山田 典子(公益財団法人未来工学研究所 特別研究員)
「外国人児童生徒の支援を通じて目指す多文化共生社会の調査と実践―文化や言語の違いを超えた情報共有と信頼しあえる地域作り」
家族が日本で働くために来日する外国籍の児童生徒は、精神的に不安定な状態におかれることが多く、自閉症・情緒障害のために特別支援学級への入級率が高いと指摘されることがあるが、これを否定する先行研究もあり、実態の解明が必要とされています。このプロジェクトは、この実態を検証し、さらに外国人保護者や教育委員会に対して、必要な情報を提供することを目的としています。課題(1)、(2)、(3)をすべて含む総合的なプロジェクトだといえます。

D19-MG-0034  二文字屋 修(NPO法人AHPネットワークス 執行役員)
「家族介護の国から介護保険の国へ・・・日本の高齢者介護施設等で働く外国人介護士の安定化と異文化協働の構築」
外国人介護士受け入れを行っている団体・施設の当事者からなるプロジェクト・チームによる介護現場における実態を調査するプロジェクトです。帰国者へのインタビューを通じて日本在留者とは異なる課題を抽出し、セミナーを開催することで広く情報を提供し、報告書は、外国人介護士受け入れマニュアルとして利用されることを目指しています。課題(1)に貢献するプロジェクトであると評価されます。

D19-MG-0035  武田 裕子(順天堂大学医学部医学教育研究室 教授)
「医療者への『やさしい日本語』普及を目指した地域における在住外国人参加型学習プログラムの開発と推進事業」
医療通訳者の絶対数は不足しており、医療機関での外国人とのコミュニケーションをすべて通訳者に頼ることは現実的ではありません。多くの外国人が日本語を学び、ある程度の日本語力を持つようになっている現在、「やさしい日本語」の普及こそが現実的であり、急務です。このプロジェクトは、これまで行ってきた取り組みを基礎に、全国規模でワークショップを開催するとともに、外国人人口比率の高い10都道府県の医療機関に「やさしい日本語」の普及をはかることを目的としています。課題(3)に貢献することが期待されます。

D19-MG-0051  土井 佳彦(多文化共生リソースセンター東海 代表理事)
「官民連携による多言語相談窓口体制強化事業―多文化共生総合相談ワンストップセンターの持続可能な運営に向けて」
外国人住民が必要とする多様な情報や相談体制を構築し、相談員や通訳などの人材養成も含めて持続可能な体制を作っていくための方策を検討・普及することがこのプロジェクトの目的です。具体的には、相談窓口の実態調査を行うとともに、愛知県の実態に適した「愛知モデル」を構築し、相談員や通訳者の研修を実施するとしています。経験あるプロジェクト実施チームが、課題(2)に正面から取り組むプロジェクトだと評価されます。

D19-MG-0062  杉田 昌平(慶應義塾大学大学院法務研究科 特任講師)
「外国人材の受け入れに関する制度に関する総合的プラットフォームの構築」
外国人雇用にあたっては、日本における出入国関連の法令、労働関係法令に加えて、送り出し国の法令も、適切に順守していくことが求められます。しかし、多様・複雑な法令を理解するのはなかなか容易なことではありません。そこで、本プロジェクトは、ベトナム、中国、インドネシア、フィリピンの四つの送り出し国の法令と、日本の出入国関連法と労働関連法令を調査し、これらを利用可能な「情報エコシステム」を構築することを目指します。課題(2)に正面から取り組むプロジェクトだと評価されます。

D19-MG-0086  荻野 紗由理(株式会社B&M 代表取締役)
「高度外国人就労者受入れ支援に関する産学官金の地方モデルの研究・実証活動」
宮崎県では、産業振興と人材不足対策として、バングラデシュの高度IT人材と県内企業とのマッチングを産学官が連携して取り組んできました。本プロジェクトでは、この取り組みをさらに促進するため、産学官に金融界やボランティア団体も巻き込んだ地域プラットフォームを形成し、外国人むけの生活支援プログラムを構築する予定です。課題(4)に取り組むプロジェクトだと評価されます。

    所感

     課題(1)、(2)、(3)に関連した意欲的取り組みが多かったと思います。外国人材とともに共生社会を構築するために必要な課題であって、当然なのだと思います。課題(4)に関連したプロジェクトは1件採択しましたが、この課題に関連した応募はあまりなかったのが実情です。さらに、課題(5)に関連したプロジェクトは応募がさらに少なく、採択にいたりませんでした。(4)と(5)の課題に関するプロジェクトを発掘するためには、経営学方面の関心を集める必要があるのではないかと思われます。
     本「特定課題」を策定した背景には、2019年4月から実施された「特定技能」という在留資格の導入がありました。しかしながら、この制度に直接関連したプロジェクトの応募はほとんどありませんでした。極めて新しい制度であることに加え、当初、想定された取得者数に遠く及ばない実績であったことがその理由であろうと思われます。来年度の募集にあたっては、この制度の問題点、改革すべき点なども含めて募集要項を考える必要があるかもしれません。

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