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トヨタ財団について

理事長ごあいさつ

17世紀に英国で活躍した詩人ジョン・ダンに、"No man is an Island, entire of itself."(いかなる人もそれだけで完結するような孤島ではないという詩句があります)。 人は孤立して生きられないということを意味した言葉です。人は、地域、家族、社会組織といった集団の中で生きています。これらの集団は、互いに姿を認識し、肌を触れ合うという人と人のつながりによって成り立っています。しかし、新型コロナウイルス感染症を封じ込めるために、このつながりや交流がソーシャルディスタンスという名前の下で大きく制限されるようになりました。これは人間のもっとも基本的な活動に関わる重大な制約です。その結果、世界中の人々の習慣や世界観が大きく揺らいでいます。

この変化はフランス革命や明治維新のように、統治者が国家機構や法体系、社会制度を短い期間に一変させる社会変動ではありません。しかし、これが引き金となって、法や制度、それに社会的な価値が静かに変わっていくことは十分にありえるでしょう。新型コロナウイルス感染症が引き起こした目の前にある困難な諸課題を解決するために私たちが知恵を絞らねばならないのはもちろんです。しかし、それと同時に、中長期的な社会の変化を丁寧に分析して正確に把握し、向かうべき未来社会の構想を描くことと、その実現を図るためのさまざまな方策に積極的に取り組むことも求められています。

リアルに触れ合うつながりに制限がかかる中で、大きな役割を果たしているのがZoomなどのオンライン会議ツールです。このデジタル技術が利用可能でなければ、新型コロナウイルス感染症が拡大する中で、あらゆる種類の組織の運営と交渉、教育機関の授業、さらには国家間の外交は全く機能しなかったでしょう。

このオンライン会議ツールは、リアルの関係の単なる代替物にとどまりません。空間的な距離というこれまでは越えることのできなかった壁を克服する可能性を秘めているからです。この技術があれば、国内であれ海外であれ、距離を気にせずに、瞬時にしかも気軽にコミュニケーションをとることができます。移動に要する時間、費用、肉体的なエネルギーはすべて不要です。今後、距離によって縛られないデジタルな関係性が広がっていくことが十分に予想できます。

このような認識に基づき、2021年度のトヨタ財団は、全てのプログラムにおいて「つながり」や「交流」の新しい姿や仕組みを追求し提案するプロジェクトへの助成を重点的に行います。新型コロナウイルス感染症の流行によって露わになった国内外の課題を克服するためにも、ITなどの新しい産業技術を社会実装するためにも、この側面への支援が重要だと考えるからです。

また、全てのプログラムにおいてオンライン会議ツールをはじめとする先端デジタル技術の活用を意識します。国内助成では、アナログ的な既存の知識や手段だけに頼るのではなく、新たな情報技術の効果的な活用による課題解決を重視します。国際助成では、国際的な人の移動に大きな制限がかかる中、国境を跨いでの実践者の相互の学び合いを促進するために、「オンライン交流枠」を新たに設定しました。

助成プログラムのうちの二つは内容を一新しました。研究助成は、「つながりがデザインする未来の社会システム」 という新テーマを掲げます。その下で個別の研究プロジェクトを公募するとともに、東京大学未来ビジョン研究センターとパートナーシップを組んで、未来社会を構想しそこで実際に活躍することが期待される若手研究者の育成にも取り組みます。財団の支援を受ける研究者は、同センターに所属して、社会の深層から始まる長期の変動についての研究に5年間にわたってじっくりと取り組みます。 

国内助成では、これまでの地域社会における活動への小規模な助成だけではなく、日本社会全体において社会サービスの創出や人材育成をめざすプロジェクトも支援します。相乗効果と波及効果の高いムーブメントの波を全国で作り出すことがその狙いです。

依然として新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない2021年度ですが、トヨタ財団は意欲的に前進を続けてまいります。冒頭で触れた"No man is an Island, entire of itself."というメッセージは、というメッセージはトヨタ財団にも当てはまります。さまざまな組織や人々、特にご関心をお持ち下さる皆様とのつながりなしには、良き助成活動は不可能です。厳しくも温かなご指導とご鞭撻をお願い申し上げます。

2021年4月
公益財団法人 トヨタ財団
理事長 羽田 正

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