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トヨタ財団について

理事長ごあいさつ

COVID -19危機が未だに収束を迎えていない今年の2月に、新しい衝撃が世界を襲いました。プーチン大統領の主導によって、ロシア連邦が隣国ウクライナに対して「無名の師」─大義名分なき戦い─といえる侵攻を開始したことです。この稿を執筆している段階では、まだこの戦いの帰趨がどのようになるのかは全く不明です。確かなのは、COVID-19危機と同じかあるいはそれを上回る影響を世界に与えるだろうことです。とりわけ1989年のベルリンの壁崩壊と冷戦終結
後に始まったグローバル化を軸とする時代の流れは大きく揺さぶられるはずです。

冷戦終結とともにグローバル化が始まった時期には、世界に存在したさまざまな「壁」がとりはらわれ、人、情報、物資、資金の流れが加速しました。その結果として、「鉄のカーテン」の向こう側の旧共産圏の解体、EUなどの地域統合の進捗、自由貿易の旗頭としてのWTO(世界貿易機関)の誕生、インターネットの出現など目覚ましいばかりの変化が国際社会に生じたことは、記憶に鮮やかに残っています。

しかし、このグローバル化の推進力も時間の経過とともに徐々に失われ、最近になるとブレクジット、アメリカ─メキシコ国境の壁などの「壁」が再び世界に現れます。そして勃発したのが国際的にも国内的にも人の流れを止め、ソーシャル・ディスタンスを課すCOVID-19危機でした。さらにウクライナに侵攻したロシアに対して、西側諸国を中心とする国際社会は、まさに人、情報、物資、資金の流れを遮断する制裁を加えています。これに対抗して、ロシア側も「壁」を築くのは疑いありません。ベルリンの壁崩壊とともに始まった一つの時代が明らかに終わり、新たな「壁」が築かれる次の時代が始まろうとしているようです。この点は、今後の助成活動を行う上で私たちトヨタ財団が視野に収めるべきことです。

一方でネット上の世界に目を向けると、「壁」とは異なる風景が見えてきます。今回の戦役で印象深いのは、ロシア軍の侵攻が始まったその時点から、ウクライナ市民がSNSを介して、彼らや兵士の果敢な抵抗やロシア軍の空爆下の日常生活、あるいは脱出を図る避難民の厳しい旅についての画像や動画の発信を始めたことです。このビジュアルなイメージが即座にネット上で拡散され、非常な速さで国際的世論を形成したのには驚かされます。開戦前には中立的だったドイツをはじめとするウクライナ周辺の国々が数日のうちに積極的にウクライナ支援の方向に舵を切った背景には、このウクライナ市民からの積極的な画像と動画の発信があります。かつてならCNNのような大メディアでなければできなかったことが、今やデジタル技術の革新に伴いスマートフォンとSNSのプラットフォームの組み合わせで誰でも実行できるようになっています。

今後は、現実世界での実践と同じかそれ以上に、SNSを活用した情報の発信が重要な意味を持つことになるでしょう。トヨタ財団も、助成事業の紹介や事業間の連携はもちろん、新たな助成分野の開拓や協働事業の企画などにも、デジタル技術やSNSを積極的・効果的に活用したいと思います。

トヨタ財団では、COVID-19危機の発生後に顕在化したさまざまな社会的変化を視野に入れて、過去2年に亘り助成プログラムの見直しを行ってきました。それが一段落したこともあり、2022年度は基本的に前年度の枠組みを大きく変えずに助成活動を実施して参ります。これまで以上に多くの方々にご関心をお持ちいただければ幸いです。 もちろん、その背後で、世界と日本の動きを大局的に俯瞰して時代の変化を注意深く読み取り、それに伴って生じるさまざまな社会的課題に目を向け、より意義深い助成活動のあり方を不断に真剣に議論してゆきたいと思います。

トヨタ財団は、2年後の2024年に設立50周年を迎えます。それに向けてより大きな社会的意義を持つ助成財団となるべく、一層の努力を続けていく所存です。皆様の厳しくも温かなご指導とご鞭撻をお願い申し上げます。

2022年4月
公益財団法人 トヨタ財団
理事長 羽田 正

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