トヨタ財団について
ごあいさつ
会長ごあいさつ
2023年の新年のご挨拶を申し上げます。
トヨタ財団は、1974年に設立され、2024年に設立50周年を迎えます。この50年の間、国際情勢は様々に変遷してきましたが、今日の世界秩序は、政治軍事的・経済的に米国と並び立つ大国となった中国、第二次世界大戦後世界の平和維持を目指して構築された国連安全保障理事会の主要メンバーであるロシアによるウクライナへの不法な軍事侵略に代表されるように、構造的に様変わりしました。
日本は1972年には西ドイツを抜いて米国に次ぐ世界第二位の経済大国となり、国内では社会保障が充実・拡大し、地域経済にも経済成長の効果が均霑して行きました。経済力を背景に国際的な地位は大きく向上し、石油危機による世界経済の混乱に対応するためにフランスにより提唱され1975年に初めて開催されたG5(イタリアが乗り込んだため実質的にはG6、その後カナダが参加してG7)の創設メンバーとなりました。日本企業は、米国、ASEAN諸国を始めとする世界各地に輸出、投資を本格化させるとともに、多くの新たな商品や様々な先端技術を開発し、世界経済を牽引する役割を果たしました。他方でこうした急速な発展は特に米国との激しい経済摩擦を引き起こし、それに対応するための政策がバブルを生じる大きな原因ともなりました。
1990年代のバブル崩壊、その後の長期にわたる停滞を経て今日の日本経済は、中国の継続的な高度成長もあって国際的な地位が大きく低下し、ASEAN諸国等諸外国との相対的関係は質的にも変化しています。少子高齢化の急速な進展の中で、企業や大学の研究・技術開発力や競争力は低下し、中山間地域を始め地方の過疎化と疲弊が進むなど、多くの課題が一段と深刻になっています。
変革の一環として、時代のニーズに対応すべく、近年いくつかの新たな事業を開始しました。急速に発展し利活用が広範に拡大するAIなどの最先端デジタル・テクノロジーに関わる「先端技術と共創する新たな人間社会」、少子高齢化の進展に対応すべく政府の政策転換により導入が進む外国人材をめぐる様々な課題に関する「外国人材の受け入れと日本社会」という、課題解決へと向かう焦点を絞った2つの特定課題を立ち上げ、鋭意助成を行っております。立ち上げ以来毎年多くの組織や団体の皆様から多岐にわたる内容の応募をいただき、ニーズの大きさを実感しています。また、東京大学未来ビジョン研究センターとパートナーシップを組み、社会システム変革に向けた研究に取り組む研究者を長期にわたり支援するコラボレーションも発足いたしました。次世代を担う人材の育成にいささかなりとも貢献できることを期待しています。
さらに、財団独自の観点に基づく「イニシアティブプログラム」を充実するとともに、社会全体でのリソースが不足する中で経験と知見の幅広い共有に少しでも貢献できればとの思いから、オンラインも活用したコンフェレンスの開催やネットワークの構築に取り組んでいます。
今後引き続きトヨタ財団が事業の変革を進めて行くに当たっては、超長期の展望に立って、少子高齢化が日本社会の様々な面で与える深刻な影響を直視し持続可能な方策を探る、また、国際的には「ミドルパワー」の日本がどのような立ち位置で活動していくのかといった視点をしっかりと踏まえることが肝要と考えます。設立50周年を寿ぐ新たな助成プログラムについて、現在財団内部で議論を重ねながらコンセプトを策定しておりますが、その際にはこうした視点を取り入れていきたいと考えており、そうした取組が、財団の次のイノベーティブな事業につながるものと期待しています。
以上の思いの下、トヨタ財団は、内外の基本的な変化を正面から捉え、社会が直面する課題に粛々と、かつ適切・大胆に取り組み、解決への道筋を見出していく、そうした事業をお手伝いしたいと考えます。皆さまの引き続きの厳しくも温かいご指導とご鞭撻をお願いいたします。
2023年1月
公益財団法人 トヨタ財団
会長 小平 信因