公益財団法人トヨタ財団

助成対象者からの寄稿

インドネシアのボゴール市とジャカルタ市における露天商人コミュニティのエネルギーサバイバルの調査

Picture 1: A project representative interview with fish cake seller Mr Afif who usually use candles to sell his products if there is a power outage
写真1:プロジェクト代表者による、フィッシュケーキを販売するAfif氏へのインタビュー。彼は停電の際にはロウソクを活用している。

著者◉ ディニタ・セティアワッティ(京都大学大学院地球環境学堂 )
Photo credit: Project representative

[助成プログラム]
2019年度 研究助成プログラム
[助成題目]
周縁化された人々のエネルギーサバイバル ―ジャカルタとボゴールにおける都市インフォーマルセクターの充電スタンドに関する事例研究 このリンクは別ウィンドウで開きます
[代表者]
ディニタ・セティアワッティ(京都大学大学院地球環境学堂 )

この原稿は英語原文を日本語訳したものです。原文はこちらからご覧ください。
Original English article is available here

インドネシアのボゴール市とジャカルタ市における露天商人コミュニティのエネルギーサバイバルの調査

概要

Picture 2: Interviews with chicken seller Mr Hasanudin, he does not have knowledge about renewable energy and solar panels.
写真2:鶏肉販売業者Hasanudin氏へのインタビュー。彼は再生可能エネルギーやソーラーパネルについての知識は持っていない。

本プロジェクトは、電力へのアクセス、価格、利用可能性の観点から、電力分野における露天商人コミュニティ社会のエネルギーサバイバルを調査しています。本プロジェクトでは、周縁化された都市部のコミュニティを、路上で商売をするインフォーマルセクター労働者、すなわち露天商人のコミュニティと定義しています。インドネシアのジャカルタとボゴールの2都市で調査を実施しました。調査手法は、インタビュー、直接観察、参与観察、文献調査です。主要な問いは以下のようなものです。どのように、そして、なぜ、ECSは電力セクターにおける分配の不平等を克服したのか。そして、その教訓とは何であり、政府に対する政策提言とは何であるか。本プロジェクト「周縁化された人々のエネルギーサバイバル ―都市インフォーマルセクターの充電スタンドに関する事例研究」は、インドネシア政府による再生可能エネルギーの取り組みと足並みを揃えるものです。プロジェクト完了時には、インドネシア政府が必要とする重要な政策提言を提供します。

背景

Picture 3: Electricity charging station (ECS) located in Taman Kencana, Bogor, Indonesia. ECS is a stand-alone power systems established to secure electricity services for street vendors across Indonesia.
写真3:インドネシアのボゴールのタマンケンチャナにあるECS(Electricity Charging Station)。ECSは、インドネシア全土の露天商人への電力サービスを確保するために設置された独立型電源システム

従来から街中で営業する露天商人に対して、たとえば、電灯やジュース作り、あるいは電気コンロを用いた調理などに必要な電力について、政府から合法的に電力を供給されることはありませんでした。小規模事業者が電力を利用する最も一般的な方法は、有毒な物質を含み大気汚染の原因となるディーゼル発電機を利用するか、または近隣の住宅からケーブルを接続して電力を使用するかです。しかし、2016年になって、インドネシア政府は公園や市場などを含む公共の場にECS(Electricity Charging Stations:充電スタンド)の設置を開始しました。ECSは、オンライントークンの購入によって誰もが電力をその場で使用できるようにするもので、インドネシア国営電力会社に利用者登録するといった煩雑な手続きが不要となります。インドネシア国営電力会社は、電力を天然資源として定めるインドネシア憲法第33条に基づいて、発電、送電、配電の権利を有しています。

第十四章
国民の経済と社会福祉

第33条
(2)国にとって重要であり、かつ、国民の生活に影響を及ぼす生産部門は、国の権限の下にあるものとする。
(3)土地、水およびそれらに含まれる天然資源は、国の権限の下にあり、国民の最大の利益のために利用されなければならない。

インドネシア政府による「エネルギー正義キャンペーン」

Picture 4: Interview with Mr Ahmad, a kebab seller who get electricity connection from nearby houses
写真4:近隣の住宅から電力供給を受けるケバブ販売業者のAhmad氏へのインタビュー。

インドネシア政府によるエネルギー正義キャンペーンがはじまった当初から、ECSを人々が日常的に利用するようになることが優先的事項の一つとされてきました。主に電力や輸送用燃料などのエネルギー源の可用性と利用のし易さ、購入のし易さを確保するために、インドネシア政府が計画した「エネルギー正義」キャンペーンの一部なのです。エネルギー正義は学問の一分野でもあり、Benjamin Sovacool教授がその著書「グローバル・エネルギー正義:課題、原則、実践(原題Global Energy Justice:Problems, Principles and Practices)」の中で、「コストと利益を公平に分配し、公正で代表的な意思決定の過程を持つグローバルなエネルギーシステム」と定義しています。

正義とは、理想的には、平等であり、公正であり、道徳的に正しいという性質にかかわるものです。公正な行動を決定する道徳的原則は、その国の法律あるいは公正の正義のシステムに一致します。しかしながら、正義とは相対的な言葉であり、誰が定義するかによって異なる哲学的な考えを伴います。つまり、政府が定義する正義は、地域社会が定義する正義とは異なっている可能性があります。重要となるのは、コミュニティが何を不公平と感じているのかを明らかにし、最善の解決策を見出すためにその結論を政府に伝えることです。エネルギー正義の原則を検討するにあたり、次のような問いを持っていました- 現実とは何か?正義とは何か?何をすべきなのか?

本プロジェクトでは、これらの問いに答えるために、事例研究の分析手法を用いて、状況の分析(参与観察)、どのような問題が存在するかの特定(設備に対してコミュニティが持つ正義/不正義感を明らかにするための詳細なインタビュー)、エネルギーシステムにおける正義を実現させるための最善の政策の提案(政府関係者へのインタビュー)を行いました。

プロジェクトの成果

プロジェクト「周縁化された人々のエネルギーサバイバル:ジャカルタとボゴールの都市インフォーマルセクターの充電スタンド(ECS)に関する事例研究」は、ECS周辺のコミュニティにおける連帯感、持続可能性、許容といった新しい価値観の創出を明らかにすることを目的としています。ECSは、コミュニティの社会生活において重要な役割を担っており、ビジネスに必要な電力を供給しています。ECSの社会的価値は、人々の地元への愛着、共同体の現存、そして設備を利用する他者との連帯感をつくることに寄与するところにあります。以前は、露天商人は盗電やディーゼル発電機など、違法かつ持続不可能な方法で電力を使用していました。ECSの設備の中には、ソーラーパネルを使用しているところもあり、環境や次世代への持続可能性のために再生可能エネルギーが重要であることを、潜在的にコミュニティに伝え得るかもしれません。また、二酸化炭素の排出量や再生可能エネルギーと非再生可能エネルギーの違いについても、地域社会に教えることができるかもしれません。現在、次世代、環境に対する懸念と取り組みは、社会の持続可能な発展にとって重要な要素となります。ECSは、都市のインフォーマルコミュニティ、すなわち露天商人が、より持続可能な社会へと移行できるように支援しています。

充電スタンド(ECS)は、インドネシア全土の露天商人の電力供給を確保するために設置された独立型の電力システムです。ECSが設置される前、露天商人は近隣の住宅から電線を延長して非合法的に電力を調達しており、違法な接続に頼っていました。また、歩行者用の歩道で違法に営業することも少なくはありませんでした。都市当局とこうした露天商人との間には、営業スペースをめぐる対立がありました。特定の公園や市場にECSを整備することは、露天商人に移動を促し、問題を解決させるという狙いもあります。

ジャカルタとボゴールの充電スタンド付近で営業している露天商人28人へのインタビューから、露天商人は商売に必要な電力を確保するのが困難であることがわかりました。約7割の露天商人が、安定した電力を確保できる場所を探すために何度も場所を移動する必要があると答えています。電力を確保する方法には、非常用電源、近隣の住宅への接続、ディーゼル発電機、充電スタンドなど、さまざまな方法があります。インタビューした露天商人のうちわずか4人のみ、充電スタンドの近くで出店し、必要に応じてソケットを使用できるという理由から、ECSを日常的に利用していました。彼らが普段、充電スタンドの接続に利用するケーブルは、1メートル未満であることがわかりました。

露天商人のコミュニティにおける配分的不正義、あるいは電力へのアクセス不足といったリスクを軽減する点については、まだこれからも注視していく必要があります。ECS付近で営業している露天商人の半数以上は、ECSが電力を供給できることを知りませんでした。この設備は、一般市民が携帯電話の充電のために利用することがほとんどです。このため、ECSの重要性やそれによる太陽エネルギー利用の可能性について、政府はさらに情報発信に努める必要があります。また、COVID-19のパンデミックにより、パンデミック前に商売をしていた露天商人が店を閉じ、新たな露天商人が出店するようになったため、設備の利用に影響が出た可能性もあります。充電スタンドは2016年に設置されたものであり、新しい露天商人に設備の情報が届いていないことも考えられます。

私たちが調査した10の地域のうち、ECSが設置されていたのは、ジャカルタ市では5か所ありましたが、ボゴール市では2か所のみでした。充電スタンドを利用する露天商人にとって、その設備の利用が欠かせない日常業務となっていることがわかりました。ある場所(ジャカルタのタマンバクティ)では、ECS利用のために屋台商らがまとめて電力トークンを購入しており、エネルギーを介したコミュニティ形成がうかがえました。電力トークンとは特定の数字が記された文書のことで、それをECSに入力すると決まった量の電力が供給されます。今回のケースでは、このコミュニティがエネルギー政策の集団的利益を共有していることになります。

「月々約20万ルピア(約18米ドル)をまとめて支払っています。この設備ができる前は、近くの家の電力を使っていたので、もっと高かったです。」

ソーラーパネルで発電している設備もありますが、露天商人の間では、エネルギー源に関する知識は一般的ではありません。ソーラーパネルや太陽エネルギーについて理解している露天商人は38人中1人しかおらず、低炭素エネルギーに関する認知度の低さがうかがえます。

再生可能エネルギーについては知らない。ただ(ECS設備を)使っているだけ、日々の暮らしのこと以外はわからない。

ECSの設置は、小規模コミュニティの再生可能エネルギー利用への参加を促すものです。また、この設備は、脆弱なコミュニティがエネルギーへのアクセスを必要としていることを、政府が認識していることを示しています。従来、インフォーマルセクターの労働者は、政策立案や資産管理において軽視されてきましたが、この新しい展開は、政府の政策に前向きな変化があることを示唆しています。

これらのスタンドが設置される前、露天商人らは近隣の住宅から電線を延長して当局に未許可で電力を取るなど、違法な接続に頼っていました。歩行者用の歩道で違法に営業することもよくありました。都市当局と露天商人らの間では、露天商人営業スペースに関する対立がありました。ECSを指定の公園や市場に整備し、そこへ露天商人らの移動を促すのは、この問題に対処するためでもあります。

図1
図1:充電スタンドの利用によって、エネルギー正義の原則である「適正価格」「利用のしやすさ」「可用性」が確認された研究結果。

図1は、充電スタンドの利用によって、エネルギー正義の原則である「適正価格(affordability)」「利用のしやすさ(accessibility)」「可用性(availability)」が確認された研究結果です。また、社会にとっての新しい価値観は、電力を集団で購入するという共同体感覚、すなわち連帯感であることもわかりました。しかし、いくつかのスタンドはソーラーパネルを利用しているにもかかわらず、再生可能エネルギーは社会にとって新しい価値観となっていないことがわかりました。従って政府は、よりクリーンな生活環境を支えていくために、露天商人に対してソーラーパネルや再生可能エネルギーの重要性をより教示していく必要があると言えます。

露天商人による正義の理解については、彼らは正義を「平等であること」と理解していました。また、そうした彼らの理解を翻訳するならば以下のような要素が含まれています:電力の利用のし易さ、電力の購入のし易さ、政府による電力プログラムの情報発信の充実、そして、エネルギー会社による汚染者負担に対する企業の社会的責任プログラムとなります。インドネシア政府による正義の共通理解と同じように、彼らは不公平がエネルギー製品の価格や購入しやすさに関係していると考えています。政府の電力補助金制度は、すべての国民が平等に電力にアクセスできることを保証する、政府が打ち出した好ましい解決策の一つです。

Picture 5: Talk show inviting Mr Eko Sulistyo from the State Electricity Company Indonesia, Mr Harris Yahya, Director for Geothermal Ministry of Energy and Mineral Resources Indonesia, project representative and Mr Saweri from Jakpreneur
写真5:インドネシア国営電力会社のEko Sulistyo氏、インドネシアのエネルギー鉱物資源省地熱担当局長Harris Yahya氏、プロジェクト代表と、JakpreneurのSaweri氏を招いてのトークショー。

結論、意義、配信

Picture 6: Interview with Ms Nur, street vendor selling rice cake in Air Mancur, Bogor   Photo credit: Project representative
写真6:ボゴールのAir Mancurで餅を販売している露天商人、Nur氏へのインタビュー。

本プロジェクトでは、ドキュメンタリー映像を作り、学術論文「Injustice and Environmental Harm in Extractive Industries and Solar Energy Policies in Indonesia」(International Journal for Crime, Justice and Social Democracyに掲載)を執筆し、また、エネルギー鉱物資源省、インドネシアの国営電力会社、小規模事業者コミュニティJakpreneurを招いてトークショーを開催しました。トークショーで政府関係者らは、再生可能エネルギーがインドネシアにとって重要であること、農村部だけではなく人口が密集している都市部でも活用されることが重要であることに同意しました。実際、政府はよりクリーンなエネルギーへの移行を加速させるために、ソーラーパネルや地熱の利用を推進しています。都市部での再生可能エネルギーの利用には、充電スタンドの屋根に設置されているソーラーパネルを使用することができます。

また、地熱は、電力系統において混合する再生エネルギーの利用を促します。起業家のコミュニティでは、よりクリーンなエネルギーを利用することにより、ビジネスの質を向上させることができるという意見で一致しました。彼らの商品価値を高める付加価値となり、消費者へのマーケティング戦略になり得ます。この政策の意義は、再生可能エネルギーの普及を促進し、より良い生活環境を支えていくために、再生可能エネルギーの重要性を人々に教示することにあります。

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