公益財団法人トヨタ財団

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研究助成プログラム

2015年度研究助成プログラム 選後評

選考委員長 桑子敏雄

研究助成プログラムの選考について

トヨタ財団の研究助成は、「社会の新たな価値の創出」をキーワードに時代の先を行く研究プロジェクトを採択し、これを支援しようとするプログラムです。広大な宇宙のなかの小さな惑星である地球に生じているさまざまな問題に対して、理論的根拠と実践的な裏づけを伴う社会の新しいあり方の展望、概念や認識の枠組みやパラダイムの提案に果敢に取り組もうとする試みを期待する、他に類のない研究助成です。

現代社会では、人間どうしの間の複雑な紛争が人びとの平和な生活だけでなく、生活空間である地球環境を破壊しつづけています。日本国内を見れば、東日本大震災という自然災害と原子力発電所の事故という人間由来の傷に対する手当てを私たちはまだ見出していません。
選考委員会一同は、こうした社会の現実を直視する挑戦的な研究プロジェクトを期待していますが、昨今の学問研究をめぐる状況を考えるとき、このような期待に応えることの難しさも感じています。研究者は、外部資金の調達に懸命のように見えます。研究機関もそのような訓練の場を設けるなど、研究者は、申請書・企画書を型どおりに仕上げることに慣れてしまっているのではないでしょうか。トヨタ財団の助成をそのような外部資金のひとつとしてのみ位置づけた応募も見られます。

研究成果もまた既存のディシプリンの枠のなかで評価されています。任期制による研究職の時間的制限は、若手研究者の研究生活を設計する上で重い足かせとなっています。既存の研究枠組みのなかでどのように成果を上げることができるかと悩ませ、自由な研究の翼を羽ばたかせることを難しくしているようにも見えます。

このような状況では、研究を支配する思考の枠組みそのものを打破し、社会の変革の機動力になるような斬新な発想は生まれにくいかもしれません。しかし、だからこそ、トヨタ財団は、「新たな価値の創出」というテーマを掲げて、若々しい知性の躍動を期待しているのです。

選考委員会では、実はそのような価値の創出とは何か、どうあるべきかという問題について激論を戦わせながら、毎年審査をしています。選考委員それぞれが固定した基準をもって審査しているわけではありません。委員会メンバーの専門分野は多彩ですから、そこには当然議論が生じます。それぞれの研究実践を踏まえ、新しい価値創出はどうあるべきかについて議論しているのです。ですから、プロジェクトの提案によって選考委員会の議論に熱気を与える・・・そのような提案を一同、期待しているのです。

採択されたみなさんも、あるいは、来年度応募してみようとするみなさんも、既存の枠組みを打破するような気概をもって、研究にチャレンジしてほしいと思います。そのためにも、同じような問題意識や価値観をもった仲間が集まるプロジェクトではなく、多彩な分野を結集するプロジェクトが必要でしょう。そうした意欲ある研究チームを組織できる、特に若手のリーダーの出現を期待したいと思います。

本年度採択されたプロジェクトは、大きく「平和、和解、共生」、「教育、文化」、「福祉/医療、格差」、「地域/社会の発展」、「災害リスク」、「自然資源・環境」の6つのカテゴリーに括ることができます。以下、選考委員会において、多数の選考委員から一定の支持を集めたプロジェクトを挙げます。

(A)共同研究助成
D15-R-0637  山田 真寛(京都大学学際融合教育研究推進センター  特定助教)
「多文化・多言語社会としての日本の理解 ―消滅危機言語の相互理解性と世代間継承度のための客観的尺度の創出―」

本プロジェクトは、共通語としての日本語の「訛り」とみなされてきた琉球諸語などの地域言語について、客観的な根拠による正確な理解を得ることで、これらが内在する社会的多様性と向き合うための基本的な考え方を構築しようとするものです。言語・文化に関する新たな価値観を創出し、現在の日本における多文化共生政策の内容を深めることにもつながることが期待されます。

(B)個人研究助成
D15-R-0206  呉  永鎬(東京学芸大学 非常勤講師)
「戦後日本における外国人学校の法的地位に関する史的研究―グローバル化時代の教育制度の構築に向けて―」

戦後日本で外国人学校が公教育制度からどのように排除されたのか、その論理と過程を解明し、今日のグローバル化した世界における学校教育のあり方を再考しようという意欲的なプロジェクトです。外国人学校の研究ですが、その問題を日本の教育制度全体のなかにどのように位置づけるのか、また、歴史研究の成果をどのように活かし、現代の課題に向き合うのか、助成期間を通じ、より明確な観点を定めることが期待されます。

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