公益財団法人トヨタ財団

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研究助成プログラム

2012年度研究助成プログラム選後評

選考委員長 桑子 敏雄

研究助成プログラムの選考について

本年度は、昨年度と同様、<カテゴリーA>「共同研究助成」と<カテゴリーB>「個人奨励助成」という二つのカテゴリーに対して審査を行った。ただ、昨年度は、前者の内、<A1>が「社会的課題の解決に資する実践的な研究」、<A2>が「新たな社会の実現に向けた価値創出型の研究」であったのに対し、本年度は、順序を入れ替え、<A1>を「社会の新たな価値の創出をめざす研究」とし、<A2>が「社会的課題の解決に資する実践的な研究」とした。
順序を入れ替えた理由は、トヨタ財団として、現代社会は歴史上大きな節目にさしかかっているという認識から、現代社会の課題を解決し、新たな未来へ向かって斬新なビジョンを提案する研究プロジェクトを積極的に支援したいという願いがあったからである。「新たな価値の創出」ということばは、そのような思いを表現している。共同研究助成<A1>「社会の新たな価値の創出をめざす研究」では、既存の学会等の評価システムによって評価されるような研究ではなく、野心的で大胆な研究、将来の世界を切り開くようなアイデアや概念、理論の創出を期待した。
しかし、残念なことに、選考委員会での議論では、新たな社会的な価値の創出に繋がると期待できる企画は、全体的に少ないという結論に至った。
その理由については、いろいろ考えられるであろうが、一つは、トヨタ財団の助成の主旨が応募者に十分に伝わっていないのではないかということである。財団の広報の仕方をさらに工夫することも必要であろう。ただ、応募者のほうでも財団の助成の主旨を十分に理解したうえで応募していただいていなかったということも考えられる。
既存の科学研究費補助金などに十分申請できると思われるものも多く、そのような外部資金の獲得の一環として、財団の助成を位置づけていると思われるような申請内容の研究プロジェクトも見られた。また、専門用語が多く、わかりにくい企画書も少なくないという指摘もあった。
こうした現状は、現代の研究者の置かれた状況を反映しているものとも思われる。応募者には、研究のための研究ではなく、社会における研究の方向性を見定めることが大切であろう。また、研究成果がどのように社会に貢献しうるのか、より真剣に検討するべきであるという指摘もなされた。
助成の対象となる研究としては、どれも地域社会の課題に根ざしているので、内容的にはやや共同研究助成<A2>とすべき内容のように思われるものもあったが、「空間」、「教育」、「震災」、「映画」、「原発」などの問題に対して積極的にとり組もうとするプロジェクトが評価された。共同研究助成<A2>「社会的課題の解決に資する実践的な研究」のカテゴリーでは、中米諸国など、これまでほとんど助成対象とされなかった国、地域からの応募があり、こうした国・地域への助成を決定できたことは、選考委員会の喜びとするところであった。
また、トヨタ財団のめざす支援の方向にあるものとして、市民による課題解決に向けた研究が各地で行われており、こうした活動にも助成を決定できたことは選考委員会の喜びとするところであった。その代表的な例は、阿部恭子氏(NPO法人World Open Heart)による「地域における犯罪者の再犯防止プログラムの構築に関する研究  ―犯罪加害者家族支援によるアプローチ」である。こうした取り組みは、ともすれば学術的研究の視野から漏れてしまうものであり、こうした活動に助成を決定できたことは、大きな意義をもつものと思う。研究の成果を期待したい。
<カテゴリーB>「個人奨励助成」では、カテゴリー<A1>での助成が少なくなった分、多くの若手研究者への助成を決定することができた。もっとも若い研究者は26歳である。トヨタ財団は、有能な若手の研究者から必ずしも大学などの研究機関に所属していない地域の活動家にいたるまで幅広く助成の視野を広げている。
また、本年度の助成対象者の国籍は、日本と韓国だけであったが、その研究の対象となっている国は、ケニア、中国、アンゴラ、アメリカ、ザンビア、カナダ、フィリピンなどにわたっており、大きな広がりをもつ研究対象地域となっている。
選考委員会では、個人奨励助成については、企画の内容での問題点を指摘するよりも、対象者の成長を応援するという視点から、そのような期待をもてるプロジェクトを採択するように努めた。対象者の生きざまが研究計画および期待される研究成果に濃密に投影されているプロジェクトを応援したいということも選考委員会の一致した意見であった。
このような意味で、姜明江氏の「社会的弱者の服薬アドヒアランスを向上させる要因に関する研究」や相戸晴子氏の「旧産炭地の課題にアプローチする子育てネットワーク形成の研究  ―『筑豊子育てネットワーク』15年間の活動記録を中心に」は、地域社会に内在する問題を鋭く指摘し、その解決への方向をめざす野心的な研究であり、研究への熱意が感じられた。その成果を期待したい。本年度は、昨年の3・11東日本大震災から1年が経ち、さまざまな社会的問題が顕在化している時代の節目における募集であった。そうした社会的変動に応えうる新たな価値の創出を期待していたのであるが、その主旨に合致する研究が少なかったことは、非常に残念である。
しかし、今回採択されたすべての研究課題を担当される各位におかれては、研究の推進過程で、トヨタ財団の期待するところを十分に理解され、少しでもこの課題に貢献する成果を生み出していただけることを期待したい。 以下、採択された研究のいくつかを紹介する。

<カテゴリーA>共同研究助成

1. 社会の新たな価値の創出をめざす研究
貫井 万里(早稲田大学イスラーム地域研究機構 研究助手)
「革命後イランにおける映画と社会の学際的研究  ―権威主義体制下の娯楽と抵抗の文化」(D12-R-0736)
映画を通じて社会をとらえる試みは少なくないが、本プロジェクトは、イラン映画の特徴を踏まえながら、学際的な地域研究により、イラン社会の総合的理解をめざす意欲的な研究として評価される。成果の発信に関しても、シンポジウムの開催に加え、映画関係者へのインタビュー記録を元に短編ドキュメンタリー映画を製作・上映し、教材としての活用も視野に入れるなど、工夫が講じられ、高い波及効果が期待される。

2. 社会的課題の解決に資する実践的な研究
前川佳遠理(アジア太平洋戦争日本関連史資料および学術連絡支援財団 代表)
「戦争をめぐる日蘭関係の解決にむけて  ―在蘭邦人による『他国史』の内在化と現地のニーズに対応した民間主導の日蘭歴史和解プログラム生成に向けた研究」(D12-R-1133)
旧オランダ領東インドからの引き揚げ者とその子孫を中心とするオランダの人びとの感情は、日本ではほとんど知られていない。このようななかで、戦争による日蘭関係の深い溝に直面してきた当事者として、在蘭邦人主体のメンバーの思いは極めて切実である。これまでの活動の蓄積もあり、和解プログラムの実現・展開が強く期待される。

<カテゴリーB>個人奨励助成

山崎 健(奈良文化財研究所 研究員)
「日本における野生動物の分布域の歴史的変遷とその要因  ―考古動物学の確立をめざして」(D12-R-241) 
考古学と生物学の接する領域を繋ぐ野心的な研究である。本研究の成果から、野生動物の保全や管理を考える重要な材料や、さまざまな文化・教育活動に活かされる知見が得られることを期待する。また、環境史を新たな視点からとらえることが可能になり、助成対象者自身による今後の研究に展開に繋がるものと思われる。

応募データについて

最後に、本年度の研究助成プログラムの応募件数、助成件数、採択率は、以下の通りである。各カテゴリーにおいて、昨年度とほぼ同数の応募が寄せられたが、東日本大震災対応「特定課題」の導入に伴う助成金総額の削減により、助成件数が減少し、応募者にとってはより厳しい競争となった。

2012年度助成実績(下段は2011年度)
応募件数 助成件数助 成金額(千円) 予算(千円) 採択率
共同研究<A1> 149 5 26,900 約40,000 3.4%
共同研究<A2> 236 8 40,200 約40,000 3.4%
個人奨励< B > 495 21 27,990 約20,000 4.2%
合 計 880
(862)
34
(47)
95,090
(141,300)
100,000
(150,000)
3.9%
(5.5%)
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