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プロジェクトイベント・シンポジウムレポート

社会コミュニケーションプログラム 報告書「地域を基盤とした包括的な性暴力被害者支援体制の構築に向けて」

情報掲載日:2015年8月12日

社会コミュニケーションプログラム 報告書「地域を基盤とした包括的な性暴力被害者支援体制の構築に向けて」
プログラムコミュニケーションプログラム
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トヨタ財団では、2011年度研究助成プログラムにおいて、さまざまな性暴力被害の実態と効果的な被害者支援のあり方について調査・研究を行った「包括的な地域型性暴力被害者支援体制の構築に向けた研究――神奈川県における取り組みを題材に」と題したプロジェクトに助成しました。さらに、2013年度社会コミュニケーションプログラムでは、この成果を踏まえ、地域の関係機関との連携や社会への情報発信を進めながら、具体的な支援体制の構築と支援者の養成に取り組んだプロジェクト「地域を基盤とした包括的な性暴力被害者支援体制の構築に向けて――情報発信・支援者養成・意識啓発を中心に」に助成を行いました。合わせて3年間の助成から、社会の理解や被害者への支援がまだ十分ではない難しい問題に対し、確かな成果が得られたと言えます。2つのプロジェクトの代表者を務めた棟居徳子さん(金沢大学・准教授)に、助成期間の研究及び活動を振り返っていただきました。



棟居徳子(むねすえ・とくこ) 棟居徳子(むねすえ・とくこ)
金沢大学准教授

[報告書]2013年度 社会コミュニケーションプログラム
地域を基盤とした包括的な
  性暴力被害者支援体制の構築に向けて

── 情報発信・支援者養成・意識啓発を中心に ──

はじめに

性暴力は重大な人権侵害にもかかわらず、日本の既存の法制度の枠組みや支援体制では、被害の実態や被害者のニーズに対応した十分な支援が提供されていません。また、性暴力被害への理解が不十分なことから、被害を訴え出た被害者が二次被害を受けることもあります。そうしたことが要因で、被害を誰にもどこにも相談できず一人で長年苦しんでいる被害者がたくさんいます。

私たちは、神奈川県を基盤に、「すべての性暴力被害者が、その尊厳の回復、心身のケア及び生活再建のために必要な支援を、途切れなく継続的に受けることができる、包括的な性暴力被害者支援体制の構築」を目指し、県内の医療関係者、法曹、被害者の相談・支援機関・団体の支援者、サバイバー及び研究者等、あらゆる専門性・職種・立場の人たちと共に研究活動を進めてきました。そうした私たちの研究活動は、公益財団法人トヨタ財団から2回の助成を受け、支援をいただいたことで、大きく発展・展開することができました。

そこで、以下では、2013年度社会コミュニケーションプログラムに採択されたプロジェクトについて、2011年度研究助成プログラムの助成を受けたプロジェクトからの展開を含め、概要をご紹介した上で、このプロジェクトの目的と成果、そして今後の課題について述べたいと思います。

1.プロジェクトの概要

本プロジェクトは、2011年度研究助成プログラムの「共同研究1:社会的課題の解決に資する実践的な研究」に採択された研究プロジェクトの成果をさらに発展させるとともに社会に発信していくことを目的に、2013年度社会コミュニケーションプログラムの助成を受けて実施したものです。そこで、まず2011年度研究助成プログラムの助成による研究プロジェクトの概要について述べたいと思います。

2011年度から2年間の研究プロジェクトでは、神奈川県における包括的な地域型性暴力被害者支援体制の構築を目的に、主に(1)性暴力の実態及び性暴力被害者のニーズに関する調査、(2)性暴力被害者支援に関する神奈川県内の社会資源に関する調査、(3)性暴力対応医療者・アドボケイト養成プログラムの開発及び養成研修会の実施、に取り組みました。

(1)では、2012年2月に神奈川県立保健福祉大学の研究倫理審査で承認を受け、被害当事者9名、職務上関係者9名のヒアリングを実施しました。本調査の結果は、報告書(棟居徳子・髙橋恭子・新堀由美子編『性暴力の被害に遭われた方のニーズに関するヒアリング調査報告書』性暴力対応ネットワークStaRTかながわ調査チーム、2013年)にまとめ、関係機関等に配布しました。

(2)では、2012年に県内の関係機関・団体にアンケート調査を実施するとともに、インターネットサーベイにより県内の関係機関・団体の情報収集を行いました。そして、調査結果をまとめ、リファーラルガイドブック(棟居徳子編『性暴力被害  サバイバーと支援者のためのリファーラルガイド――神奈川県内の社会資源一覧』性暴力対応ネットワークStaRTかながわ、2013年)として発行し、関係機関等に配布しました。

(3)では、2011年度及び2012年度にかけて「かながわ版性暴力対応医療者・アドボケイト養成研修会」のための47時間のプログラムを開発するとともに、テキスト(村上明美・髙橋恭子・棟居徳子・田中有紀編『かながわ版性暴力対応医療者・アドボケイト養成研修会テキスト』神奈川県立保健福祉大学、2013年)を作成しました。そして、2013年7月〜10月に養成研修会を実施しました。研修会には県内の保健医療福祉専門職や行政担当者を中心に46名が受講しました。

その他、2012年6月9日に、男女共同参画センター横浜にて、米国ワシントンDCから Devin Trinkley 氏を招聘し、シンポジウム「かながわ版性暴力被害者支援体制をつくるために―ワシントンDCの実践から地域の課題と目標を考える―」を開催しました。本シンポジウムには115名が参加しました。本シンポジウムの成果については、報告書にまとめ、公表しました。

以上のように、2011年度研究助成プログラムの枠組みで実施したプロジェクトでは、一定の成果を残すことができましたが、一方で次のような課題も残りました。すなわち、[1]性暴力被害者支援機関・事業等(社会資源)に関する情報発信・共有のあり方の再検討、[2]医療者・アドボケイト養成研修会の本格的・継続的展開に向けた検討と医療・福祉専門職をめざす若い世代の教育、[3]県内外における性暴力被害者支援体制の構築に向けた具体的検討・提言と市民への啓発、です。

[1]に関して、2011年度からのプロジェクトでは、性暴力被害者支援に係る社会資源に関する情報の共有を目的に、リファーラルガイドブックを作成・発行しましたが、その情報の修正・更新への対応及び配布方法の検討が課題として残りました。また、被害者の情報へのアクセス保障の観点からは、Webでの情報発信が有用であると考えられることから、Webでの情報発信について、各関係機関・団体のホームページとのリンクの問題や情報更新への対応等について、引き続き検討及び調整をしていく必要がありました。

[2]については、2013年に実施した養成研修会が神奈川県と神奈川県立保健福祉大学の支援を受けた単年度限りのモデル事業であったため、養成研修会の本格的・継続的な開催に向け、その具体的なあり方を検討する必要がありました。この点、養成研修会において、受講者や講師から、プログラムや今後の研修会のあり方についてさまざまなご意見を頂きました。また、養成研修会の受講者やプロジェクト・メンバーから、性暴力被害に関する知識は若いうちから習得する必要があるという意見もありました。特に将来医療・福祉専門職を目指す若者には必須であるという認識から、医療・福祉専門職を目指す若者向けの講座の開催についても検討する必要がありました。

[3]に関して、性暴力被害者支援と性暴力の予防のためには、市民の性暴力被害への理解とともに、多機関・多職種による連携体制の構築が不可欠です。そのため、より広く社会に本研究プロジェクトの成果を発信していく必要があると思いました。また、国内ではすでに医療機関を拠点として性暴力被害者への包括的な支援を展開している地域もあり、そうした先駆的な取り組みを参考に、神奈川県における被害者支援体制について具体的に検討及び提言をしていくと同時に、神奈川県の取り組みを全国に発信していくことも必要だと思いました。

以上のような課題認識に基づき、2013年度社会コミュニケーションプログラムの助成を受けたプロジェクトでは、主に次の3つの点に焦点を当てて取り組みました。すなわち、(1)改定版リファーラルガイドブック(社会資源一覧)の発行及びWebでの情報発信のあり方の検討、(2)養成研修会のフォローアップ及び継続的開催に向けた調整と若者講座の開催、並びに(3)性暴力被害者支援体制の構築に向けたシンポジウムの開催、です。

これまでに述べてきたような研究プロジェクトの課題認識と新たなプロジェクトへの展開は、トヨタ財団のプログラム・オフィサーとのやり取りを通して確立されてきたものです。トヨタ財団の研究助成プログラムは、他の研究助成プログラムと異なり、助成期間中におけるプログラム・オフィサーとの密なやりとりを通して実施されます。私たちがプロジェクトを遂行するにあたり、プログラム・オフィサーからは、プロジェクトの進捗状況の確認にとどまらず、プロジェクト運営、企画内容及び成果の評価等に関しても助言を頂くなど、きめ細やかなサポートを頂きました。

先述したように、私たちのプロジェクトはあらゆる専門性・職種・立場のメンバーから構成される学際的・横断的なプロジェクトです。単独で実施する研究や単一の専門分野の研究者のみで実施するプロジェクトとは異なり、共同プロジェクトだからこそ実現できたことも多々ある一方、プロジェクト運営には難しさもありました。プログラム・オフィサーから運営面における助言やサポートを頂いたおかげで、最後までプロジェクトをまとめていくことができたと思います。

また、私たちのプロジェクトは、調査・研究のみならず、研修会やシンポジウム等多くの企画を同時並行で進めてきました。プログラム・オフィサーは、私たちの実施した企画には毎回お越しくださり、時には一般の参加者と一緒にワークショップに参加して頂いたこともありました。そして、企画の実施に追われがちになってしまっていた私たちにとって、プログラム・オフィサーから頂く客観的な立場からの助言や意見は、自分たちの立ち位置やプロジェクトの社会的意義を再確認させてくれるものでした。その意味で、トヨタ財団のプログラム・オフィサーと本プロジェクトのメンバーは、共に社会的課題に取り組む「チーム」の関係であったと思います。このように構築されたプログラム・オフィサーとの信頼関係が、研究助成プログラムから社会コミュニケーションプログラムによる助成への展開の基礎にありました。

2.プロジェクトの目的と成果

次に、社会コミュニケーションプログラムの助成による3つの取り組みについて、それぞれの目的と成果を順に述べたいと思います。

(1)改定版リファーラルガイドブック(社会資源一覧)の発行及びWebでの情報発信のあり方の検討

リファーラルガイドブック 『性暴力被害 サバイバーと支援者のためのリファーラルガイドブック――神奈川県内の社会資源一覧【2014年改訂版】』表紙

リファーラルガイドブック作成・発行の第一の目的は、性暴力被害者の必要な支援に関する情報へのアクセス保障と、被害者のエンパワメントです。地域において活用しうる既存の性暴力被害者支援に関する社会資源の情報を一元化し、発信することによって、被害者が必要とする支援に関する情報にアクセスすることを容易にするとともに、情報は被害者にとって力となることから、被害者をエンパワメントする効果もあると思います。

第二に、このような社会資源に関する情報は、被害者のみならず、支援者にとっても、支援を行っていく上で、他機関・団体との連携を促進することに役立つと思います。性暴力被害者支援には、司法・医療・福祉・心理・教育等、あらゆる分野のさまざまな機関・団体・専門職が関わります。同時に、各機関・団体・専門職には、それぞれ自機関・団体ないし各自で出来ることに限界があります。各機関・団体・専門職が連携し、地域において途切れない支援を提供できる体制を構築するためには、まず各支援者が地域の資源に関する情報を共有することが重要であると思います。実際、研究助成プログラムの枠組みにおいて作成・発行したリファーラルガイドブックについては、支援者からのニーズが多くありました。

そこで、社会コミュニケーションプログラムの助成を受けたプロジェクトでは、前回の研究助成プログラムの助成期間中に作成・発行したリファーラルガイドブックをベースに、さらに情報を修正・更新した『性暴力被害 サバイバーと支援者のためのリファーラルガイドブック――神奈川県内の社会資源一覧【2014年改訂版】』を作成し、発行しました。同ガイドブックでは、性暴力被害者が直接的ないし間接的に関わり得る神奈川県内の社会資源の情報を2部構成でまとめています。第1部「社会資源一覧」では、被害者に直接対応する「相談窓口」の情報をカテゴリーごとに掲載するとともに、医療機関、自助グループ、地域ネットワークの情報も掲載しました。第2部「機関・団体の詳細情報」では、「社会資源一覧」に掲載されている機関・団体のうち、さらに詳細な情報を提供頂いた機関・団体の情報を掲載しています。

同ガイドブックは、2000部作成し、掲載されている機関・団体を中心に、神奈川県内の関係機関に配布しました。また、本プロジェクトにおいて開催した研修会やシンポジウムにおいても参加者及び関係者に配布しました。

(2)養成研修会のフォローアップ及び継続的開催に向けた調整と若者講座の開催

「かながわ版性暴力対応医療者・アドボケイト養成研修会」チラシ 『かながわ版 性暴力対応医療者・アドボケイト養成フォローアップ研修会』チラシ

地域において性暴力被害者のニーズに即した支援を提供するとともに、二次被害を防止するためには、性暴力被害者支援に関する特別の訓練を受けた医療者及びアドボケイトの存在が不可欠です。そのような医療者及びアドボケイトを神奈川県内で養成し、地域に輩出することを目的に、まずは研究助成プログラムの枠組みにおいて、「かながわ版性暴力対応医療者・アドボケイト養成研修会」を実施しました。

同養成研修会において実施した受講者アンケートからは、フォローアップ研修の機会を望む声が多く、また具体的なテーマとしては、[1]性暴力被害者の心理と精神的ケア、[2]関係法規及び司法手続、[3]子どもの性被害における子どもとその家族への対応、[4]性暴力加害者対応プログラム、に関する要望が多くありました。また、性暴力被害に関する知識は若いうちから習得する必要があるという意見もあり、特に将来医療・福祉専門職を目指す若者向けの講座の実施が課題となっていました。さらに、神奈川県が2014年度から性暴力被害者のための24時間電話相談窓口を開設することとなっていたことから、そのための人材確保も地域の課題として背景にありました。

そこで、社会コミュニケーションプログラムによる助成では、医療者・アドボケイト養成研修会の受講者の声を反映して、原則養成研修会の受講者を対象としたフォローアップ研修会を開催するとともに、医療・福祉専門職を目指す大学生・専門学校生を対象とした若者講座を開催しました。

2014年7月19日(土)及び20日(日)の2日間に、神奈川県助産師会立とわ助産院において、「かながわ版性暴力対応医療者・アドボケイト養成フォローアップ研修会」を開催しました。県内の保健医療福祉専門職や相談員を中心に、19日は18名、20日は17名が受講しました。

本研修会では、1日目に、西(白川)美也子氏(こころとからだ光クリニック・医師)による「性暴力被害者の心理と精神的ケア」に関する研修と、鈴木浩之氏(神奈川県鎌倉三浦地域児童相談所)による「性的虐待と子どもを守ろうとする保護者への支援」に関する研修を、そして2日目に、鈴木ふみ氏(すぺーすアライズ・弁護士)による「性暴力に関する関係法規と司法手続き」に関する研修と、玉村あき子氏(NPO法人性犯罪加害者の処遇制度を考える会)による「性暴力加害者への支援」に関する研修を実施しました。いずれの講師も、各領域において第一線で活躍している実践者であり、その豊富な知識と経験を踏まえた研修内容を提供くださいました。受講者アンケートの評価も高く、特にすでに対人援助職として活動している受講者にとっては、実践で活かせる内容であったと思います。また、研修を通して、性暴力被害者支援に関して、社会的に取り組むべき課題を再認識する機会ともなりました。

若者講座「性暴力対応における倫理と役割を学ぶ〜神奈川県内で保健医療福祉を学ぶ学生を対象に〜」チラシ 『性暴力対応における倫理と役割を学ぶ〜神奈川県内で保健医療福祉を学ぶ学生を対象に〜』チラシ

2014年11月9日(日)には、ウィリング横浜において、若者講座「性暴力対応における倫理と役割を学ぶ〜神奈川県内で保健医療福祉を学ぶ学生を対象に〜」を実施しました。参加者は57名(学生45名、教員12名)でした。

本講座では、性暴力被害の実態及び被害者の思いを知るため、「サバイバーの声を聴く」と題した講演会の機会を設けました。また、性暴力についての正しい知識と専門職としての倫理を学ぶために、認定NPO法人エンパワメントかながわのスタッフをファシリテーターに招き、性暴力防止ワークショップを行いました。グループでの事例検討を通して、相談を受けた時に専門職として、あるいは学生である今の自分が、どのような支援や対応ができるか、意見交換をしました。

これまで性暴力についてほとんど知識がなかった学生たちにとって、サバイバーや支援者からの話を聴くことで、自分の中にあった誤った性暴力及び被害者への認識に気付き、正しい知識を身につけることができたと思います。

また、具体的な事例検討を通して、専門職として求められるスキルと倫理についても学び考える貴重な機会となったと思います。

(3)性暴力被害者支援体制の構築に向けたシンポジウムの開催

「みんなで考えよう『性暴力』のこと―地域で安全を守る―地域における包括的な性暴力被害者支援体制の構築に向けて」シンポジウムのチラシ 『みんなで考えよう『性暴力』のこと―地域で安全を守る―地域における包括的な性暴力被害者支援体制の構築に向けて』チラシ

性暴力被害者支援と性暴力の予防のためには、市民の性暴力被害への理解とともに、多機関・多職種による連携体制の構築が不可欠です。また、国内ではすでに医療機関を拠点として性暴力被害者への包括的な支援を展開している地域もあり、そのような先駆的な取り組みを参考に、神奈川県における被害者支援体制について具体的に検討し、提言すると同時に、これまでのプロジェクトの成果と神奈川県の取り組みを全国に発信していく必要もあると思いました。そこで、社会コミュニケーションプログラムの助成により、次のような2つの一般公開のシンポジウムを開催しました。

まず、2014年9月6日(土)に、神奈川県立保健福祉大学において、シンポジウム「みんなで考えよう『性暴力』のこと―地域で安全を守る―地域における包括的な性暴力被害者支援体制の構築に向けて」を開催しました。主催は神奈川県立保健福祉大学地域貢献研究センターで、神奈川県立保健福祉大学を支援する会、横須賀市及び性暴力対応ネットワークStaRTかながわに後援頂きました。当日は48名が参加しました。

本シンポジウムではまず、基調講演として、佐賀県DV総合対策センター・所長の原健一氏から、「性暴力被害者支援における連携・協働システムの構築〜佐賀県の取り組み〜」についてご講演頂きました。佐賀県は全国に先駆けて、自治体主導による病院拠点型の性暴力被害者のためのワンストップ支援センターを開設しています。佐賀県における性暴力被害者支援に係る費用負担のあり方やセンター運営における関係機関・団体との連携のあり方は、病院拠点型のワンストップ支援センターがいまだ存在しない神奈川県にとって大変参考となるものでした。

また、神奈川県は広域にわたり、かつ人口も多いことから、県内に複数のワンストップ支援センターないしその機能をもった地域支援体制を構築することが必要です。そのような認識の下、「横須賀市における性暴力被害者支援と多職種連携のあり方を考える」をテーマに、本研究プロジェクトの副代表であり、横浜弁護士会犯罪被害者支援委員会・委員長の白石美奈子氏、横須賀市市民部人権・男女共同参画課・課長の畠山由佳氏及び横須賀市立うわまち病院・看護師長の堀尾美穂氏の3名に、それぞれのお立場からご報告頂きました。本シンポジウムの実施が、横須賀市における性暴力被害者支援体制を考える契機となったと思います。

「みんなで考えよう『性暴力』のこと―地域で安全を守る―地域における包括的な性暴力被害者支援体制の構築に向けて」シンポジウムの様子 シンポジウムの様子

さらに、2015年2月7日(土)には、アートフォーラムあざみ野において、シンポジウム「かながわのStaRT すべての性暴力被害者のために」と「大藪順子写真展 プロジェクトSTAND:立ち上った性暴力被害者達」を同時開催しました。主催は性暴力対応ネットワークStaRTかながわで、横浜市との共催で開催しました。また、神奈川県及び公益財団法人横浜YWCAからも後援頂きました。当日の参加者は、シンポジウム83名、写真展約166名でした。

本シンポジウムでは、「性暴力被害の現状と神奈川県の取り組みについて」をテーマに、神奈川県安全防災局安全防災部犯罪被害者支援担当課長の椎野こずえ氏から「神奈川県の性犯罪・性暴力被害者支援」について、認定NPO法人エンパワメントかながわ・事務局長の池畑博美氏から「小学校における取り組みのご紹介とプログラムの理念とその効果について」、そして白石美奈子氏から「StaRTかながわの活動と今後の目指すところ」について、それぞれご報告頂きました。

次に、日米両国で活躍しているフォトジャーナリストの大藪順子氏から、「アメリカの被害者支援を受けて」というテーマで、自身の性暴力被害の体験を踏まえ、アメリカでの支援の状況や今後神奈川そして日本に求められる被害者支援のあり方についてご講演頂きました。最後に、これまでの登壇者への会場からの質問に回答する形で、主に今後の課題についてパネルディスカッションを行いました。本シンポジウムの実施は、神奈川県の現状や課題について再確認する機会となりました。また、大藪氏の講演と写真展により、幅広い市民が性暴力被害について理解する貴重な機会ともなったと思います。

3.今後の課題

これまで述べてきましたように、社会コミュニケーションプログラムの助成によるプロジェクトは、概ね順調に当初の計画を実施することができました。一方で、いくつか残された課題もあります。

まず、課題の一つ目は、前回の研究助成の際にも課題であった情報発信のあり方についてです。情報を必要とする被害者に如何に情報を届けるか、リファーラルガイドブックの配布方法とWebでの情報発信について、本プロジェクトでは関係機関・団体から意見を頂き、メンバーと検討しました。具体的には、本プロジェクト・メンバーのほぼ全員が関わっている任意の民間ネットワーク「性暴力対応ネットワークStaRTかながわ」のホームページにおいて、リファーラルガイドブックの情報を掲載することを検討しました。ただ、情報の継続的発信(情報の再収集・修正・更新を含む)に係る人的及び経済的基盤の確保が困難であるとの判断から、直ちには結論を出すことができませんでした。

この点、Web上の情報管理に関しては、各関係機関・団体の状況を常に把握できる必要があり、かつ各機関・団体の状況に応じて柔軟に情報を修正・更新することができる体制が必要です。前回の助成期間中に実施した「性暴力の被害に遭われた方のニーズに関するヒアリング調査」においても、サバイバーから「インターネット上の相談先は、すでに相談を終了しているなら削除してほしい」という意見もありました。

また、Webで発信する情報については、その正確性及び信ぴょう性を確保するための取り組みも不可欠です。そのためには、Webの情報管理者の調査及び情報管理に関する能力開発とともに、情報管理者と各関係機関・団体との信頼関係の構築も重要です。

以上を考慮しますと、状況に応じた柔軟な対応は民間の事業に馴染むものであるかもしれませんが、一方で、中長期にわたる事業継続(そのための人的及び経済的基盤の確保)と情報の正確性及び信ぴょう性確保の観点からは、一民間団体だけの取り組みでは困難が多く、地方自治体や大学等の研究機関との連携も今後検討していく必要があると思います。Web発信については、システムエンジニアやウェブデザイナー等のプロボノの活用も含め、引き続き検討をしていきたいと思っています。

学生研修会の様子 学生研修会の様子

二つ目の課題としては、支援者の養成研修会等のあり方が挙げられます。フォローアップ研修会の受講者アンケートでは、研修会の継続を望む声が多くありました。また、若者講座の参加者アンケートでも、サバイバーの声を聴く機会やこうした講座の開催についての要望が複数見られました。こうした要望に応えるためにも、今後、養成研修会及び若者講座の本格的・継続的な開催に向けて、養成研修会等のあり方を検討する必要があります。

養成研修会の本格的・継続的実施に向けた目下の課題は、予算(財源)の確保だと思います。このことは、養成研修会等の主催者が誰(どこ)であるのが最適か、ということとも関連します。近年、学会等での性暴力被害者支援看護職(SANE)の養成プログラムも始まっています。こうした学会等の動きと同時に、「地域における」包括的な性暴力被害者支援体制の構築を念頭に置いた場合には、それぞれの地域において必要な医療者及び支援者を養成していくことも重要だと思います。特に、神奈川県においては、2014年度から性暴力被害者のための24時間ホットラインが開設されており、特別の訓練を受けた質の高い支援者の継続確保が不可欠です。また、第2次犯罪被害者等基本計画及び第3次男女共同参画基本計画において示されているように、専門家の養成や看護師等の活用等は、地方自治体が率先して取り組むべき課題でもあります。

よって、今後の養成研修会等の継続実施については、地方自治体に、予算確保を含め、具体的に検討・調整していくことが求められます。実際の研修会等の運営については、地方自治体から他機関・団体等に委託することも考えられると思います。また、プログラムや教材の開発、そして講師の確保については、大学や関連する民間団体に委託することも可能だと思います。

さらに、もし予算確保が困難な場合、専門職を対象とした養成研修会については、受講者からの受講料の徴収も考えて良いだろうと思います。本研究プロジェクトにおける研修会等はすべて無料で実施しましたが、専門職としてすでに働いている受講者にとって、「無料」のインセンティブはさほど大きくないように思われました。フォローアップ研修会のアンケートでは、「有料でも構わないので年に2、3回開催して頂きたい」という意見もありました。専門職を対象とする研修会の場合は、料金よりも、むしろ開催日程(スケジュール)の方が要検討事項であるように思います。職種によって、あるいは勤務先及び勤務条件によって状況が異なるため、すべての希望に応えるのは難しいと思いますが、多忙な専門職に研修の機会を保障するためには、各専門職の参加しやすい開催日程や時間帯に合わせて実施する必要があると思います。また、専門職の場合、その所属する職能団体が実施する研修の一環ないし一部として実施できると、より参加を促進することができるかもしれません。今後、関係する職能団体との調整も検討に入れていく必要があると思います。

三つ目の課題としては、広報の問題があります。プロジェクトでは、一般公開のシンポジウムを開催しましたが、そうした市民向けのイベントを企画する際、出来るだけ多くの幅広い層にイベント情報を届けるためには、どのようなツールが有効か、検証する必要があると思います。

この点、本プロジェクトにおいて2015年2月に開催したシンポジウムの参加者アンケートから、次のようなことがわかりました。アンケートでは、「今回のシンポジウムの開催を何で知ったか」という質問に対して、「知人など」からという回答が最も多く48.7%、次いで「その他」が17.9%、「チラシ」と「SNS」がともに15.4%でした。なお、「その他」には、メール、職場、かながわ性暴力ホットライン、横浜YWCA、民生委員の研修などの記載があり、関係者からの情報提供によるものが多くありました。一方、「ホームページ」は5.1%、区報、フォーラム通信、タウン誌や新聞はそれぞれ0%でした。

アンケート回収率が47%であったことから一概に言うことはできませんが、以上の結果から、「性」や「性暴力」といったデリケートなテーマを取り扱うイベントについては、信頼関係や安全性の確保といった要素も重要であることから、知人や関係者からの「口コミ」が最も有効であると思われます。このことは、2014年に実施したフォローアップ研修会の受講者アンケートにおいても、同様の傾向が見られました。

では、如何に「口コミ」を広げていくか。この点、神奈川県においては、多様な職種、立場、年齢層で構成される「性暴力対応ネットワークStaRTかながわ」の存在が、こうしたイベント情報の広報において大きな役割を果たしていると思います。StaRTかながわは、支援に直接携わる専門職のみならず、サバイバーを含めた市民に開かれた地域を基盤とするネットワークであり、かつ「顔の見える関係性」を重要視しています。こうした市民によるネットワークを構築し、広げていくことは、自治体や各関係機関が開催する関連イベントの広報にも役立つと思いますし、さらには、主に専門職で構成されるワンストップ支援センターを地域で支える基盤にもなると思います。

おわりに

「地域を基盤とした包括的な性暴力被害者支援体制の構築に向けて」表紙 活動報告書表紙

近年、徐々に日本各地で性暴力被害者支援のためのワンストップ支援センターが開設され始めています。しかし、そうしたセンターを開設した地域でも、人手不足や運営費確保といった課題があり、継続的に安定したセンター運営を支えるための制度整備が必要です。

また、包括的な性暴力被害者支援体制を構築し、発展させていくためには、社会の性暴力に対する認識を変えていく必要があります。そのためには、「支援」のみならず「予防」にも着目し、本プロジェクトで実施したような市民向けの啓発イベントの開催に加え、今後は教育関係者との連携を強化し、教育現場における取り組みについても検討していく必要があるでしょう。

さらに、私たちの研究や活動の趣旨をご理解頂き、ご支援くださった、トヨタ財団のような財団や企業を増やしていくことも重要な課題です。性暴力をはじめとする暴力は、社会構造の中で生成され、それが社会において黙認されることで増幅していくと考えます。

現在、企業は社会の重要なステークホルダーであり、かつその社会的インパクトは大きいと思います。そうしたことを考えると、今回、世界的にも有名な日本の企業が関わる財団が、「性暴力」といったセンシティブなテーマを取り扱う私たちの研究課題を助成対象として採用してくださったことは、社会的に非常に意味のあることだと思います。3年間にわたり、包括的な性暴力被害者支援体制の構築といった課題に共に取り組んでくださいました、トヨタ財団及び同プログラム・オフィサーの皆さまに、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

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