公益財団法人トヨタ財団

OPINION

09 トヨタ財団における成果に対する考え方の変遷 ─ 専門書から課題解決に役立つものへ

本多史朗(トヨタ財団プログラムオフィサー)

プログラムオフィサー

昨年11月13日に、地域創造基金さなぶり、トヨタ財団、日本財団やジャパン・プラットフォームなどの、東日本大震災からの復興に取り組む民間助成財団が、被災地現場の行政、NPO、社会福祉協議会、中間支援組織などの現場関係者の皆さまと意見交換する場を仙台で開きました。この時、現場関係者から、「民間助成財団の方たちは、どのような成果を出したいのか」、「現場の支援団体が波及効果のある成果を出すためには、何をなすべきか」という問いが出されました。これを聞きながら、「ここまで、現場の人の成果についての考えが深まったのか」と私は思い、強い感銘を受けたものです。

私がトヨタ財団に入団した20年前は、トヨタ財団の主力のプログラムは研究的な性格が強いものでしたから、助成したプロジェクトの成果のほとんどは難しそうな専門書でした。非常に装丁もしっかりしていて、いかにも重要そうに見えたものです。しかしながら、この「成果」すら出てこないプロジェクトも多かったのです。その頃、財団の先輩やその周囲の外部有識者 ─ ほとんどが大学関係者でした ─ が、成果について語ることに耳を傾けていると、「助成した研究プロジェクトが最後に成果という形でまとまるのは、良くて3割」だとか、あるいは「プロ野球の打者でも3割を打てるのは一握り。まあ鉱脈を掘り当てるのと一緒で、千に三つが関の山」などという会話が普通になされていました。要は成果が出る方が珍しいということだなと思い、納得していました。トヨタ財団だけではなく、周囲の民間助成財団でもみなそのように考えていました。今思えば、牧歌的かつ鷹揚な時代だったと思います。

この成果についての世の中の考え方が変わってきたのは2000年代に入ったころです。変化の原因は次のようなものです。

1995年の阪神・淡路大震災とそれに続く1998年のNPO法の施行と共に、NPOの社会活動に対して助成を行うことが増えてきます。こうなると、よりストレートに社会の課題を解決するような成果を出すことが求められるようになります。打率3割とか、千に三つという悠長な話では済まなくなったのです。むしろ、「助成金を出したのだから、成果を出してもらわないと困る」という発想に切り替わっていきます。

上と関連しますが、専門書のような成果 ─ 民間助成財団界の言葉でアウトプットといいます ─ を作成・配布するだけではなく、実際に課題を解決することによって社会に影響を与えなければならないとするアウトカム(Outcome)やインパクト(Impact) ─ これも民間助成財団界の言葉です ─ を重んじる考え方が国際的に主流になってきました。それが日本にも流れ込んできたのです。

一方、アウトカムやインパクトのような課題解決をするための成果という新しい考え方に対する心理的な壁が、NPOに関わるような助成対象者の皆さん自身にあったのも事実だったと思います。トヨタ財団が、課題解決、アウトカム、インパクトといった考え方を手探りの状態で導入したのは2007~2008年前後なのですが、この頃にこれらの話題となると、「トヨタ財団も成果主義になりましたね」、「助成金をもらったら、成果を出さなければならないとは、えげつない考え方ですね」とおっしゃる助成対象者や外部有識者の方もよくおいででした。何といっても、この頃には、「社会的に解決を求められている課題に取り組み、それを解決する」というより、「自分が面白いと思った、あるいはやってみたいテーマに取り組む」という発想の方がまだ強かったからです。

しかし、これが明らかに変わったのは、2011年の東日本大震災の発災がきっかけでした。大規模な自然災害に加えて、被災地を中心とする高齢化と人口減少が誰の目にも明らかな課題として浮かび上がってきたのです。これが、「やはり成果を出して、課題の解決に取り組まなければならない」という、流れにつながっていきました。

とはいえ、まだまだ何が課題を解決して、世の中のためになる成果なのかという点については、民間助成財団の側でも、現場の助成対象者の側でも模索が続いていると思います。冒頭で触れた、東日本大震災復興に取り組む民間助成財団と現場関係者の会合でも、「今後も何が復興に貢献する成果なのかについて、両者の間で意見交換を続けよう」という点に議論が落ち着きました。今後とも、この点については私たちも研鑽をつむ一方で、助成対象者の皆さまのご理解とお力添えをいただくことができれば幸いです。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.17掲載
発行日:2015年1月23日

ページトップへ