公益財団法人トヨタ財団

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国際助成プログラム

2014年度 国際助成プログラム 選後評

選考委員長  末廣  昭

2014年度「学びあいから共感へ:アジアと日本の新たなつながり」

トヨタ財団は、1974年度の設立以来、東南アジア諸国を中心に国際助成を展開し、2009年度からは「アジア隣人プログラム」を通じて、アジア諸国での課題解決を目指した実践的なプログラムを助成してきた。そうした中、アジア各国では経済発展と国民の生活水準の向上が進み、中国・インドをはじめ、マレーシア、タイ、インドネシア、ヴェトナムなどの東南アジア諸国は、「新興アジア経済」(Emerging Asian Economies)と呼ばれるようになっている。その一方で、これらの国々では、少子高齢化の進展、経済的不平等の拡大、自然災害の頻発とリスクの多様化など、日本と共通する問題に直面するようにもなった。

こうしたアジア諸国の変化を踏まえて、2013年度からは、プログラムの名称を「アジア隣人プログラム」から「国際助成プログラム」に変更し、タイ、フィリピン、インドネシア、ヴェトナムの4カ国と日本を対象地域とする新たなプロジェクトを発足させ、これら4カ国と日本に共通する課題に着目しつつ、未来を見すえた政策提言型のパイロット・プログラムを実施することとした。

共通するテーマ(助成領域)としては、1.日本や先進国の過去の経験以上のスピードで進む高齢化社会の到来に対してどのように対応するのか、具体的には「高齢者が支え、支えられるコミュニティをどのように構築するのか」(高齢化社会)、2.国境を越えた人の移動がもたらすさまざまな社会問題にどのように対応するのか、具体的には「外国にゆかりを持つ人たち、とりわけ子供たちをしっかりと受け止めるコミュニティをどのように構築するのか」(多文化社会)、3.石油・石炭に過度に依存したエネルギー消費社会から脱却し、多様なエネルギー源、とりわけ再生可能エネルギーを利用する持続可能な社会にどのように移行するのか、具体的には「再生可能エネルギーを活用したコミュニティをどう構築するのか」(再生可能エネルギー)、以上の3つを設定した。

応募状況

本年度の応募件数は73件である(2013年度は175件、2012年度は106件)。応募の国籍別分類では、日本人の応募件数が25件、外国人の応募件数が48件であった(2013年度は日本人43件、外国人132件)。応募件数が減少した理由は、本年度は「各国の現状レビューと提言作成」を求めるなど要件を厳しくしたこと、また公募情報を一般向けの情報発信ツールではなく、専門家や研究者の既存のネットワーク経由で発信したことなどによるものと考えられる。
助成領域では、高齢化社会が17件、多文化社会が21件、再生可能エネルギーが35件であり、再生可能エネルギーがもっとも多かった。

継続案件

本年度は新規公募と併行して、2013年度の助成案件のうち、アジア各国における広汎なネットワークを構築し、優れた成果をあげた案件に対する継続助成枠を設けた。各企画は2年間の期間で、アジア各国を中心とする現場訪問を含めた相互交流を行うものである。継続助成枠については、財団事務局と助成対象者の間で事前協議の上、3件を選考委員会で検討した。

選考結果

選考委員会では、1.申請プロジェクトが設定したテーマの適合性、2.学術面での重要性とその広がり、3.プロジェクトの実施体制とメンバー構成の堅実性、4.期待される政策提言の方向性とその実現可能性の4点に重点を置いて検討した。また、特定の地域社会に焦点をあて、現場レベルでの交流を企画しているかどうか、対象となる東南アジア4カ国と日本の間で共感を持って相互の経験や知見を共有できるかどうか、プロジェクトの成果を報告書の作成や報告会の開催にとどめず、ビデオの作成や体験ツアーの実施など、インパクトのある形で発信しようとしているかどうかについても、判断材料に加えた。また、選考にあたっては、3つの共通テーマ、もしくは4つの対象国に採択候補案件が均等に配分されることは意図せず、申請プロジェクトの内容を何より優先することとした。

その結果、新規採択案件の分布は、テーマ別には、高齢化社会が3件、多文化社会が3件、再生可能エネルギーが5件となり、対象国別には、タイが5件、インドネシアが3件、ヴェトナムが1件、ヴェトナムとフィリピンの比較が1件、日本の経験の発信が1件となった。タイの案件が多いのは、プロジェクトの密度や政策提言の実現可能性の高さによっている。

なお、選考にあたっては、財団のプログラム・オフィサーたちが精力的に行ったプログラムの応募の発掘や、プログラムについての追加資料の収集などが大きな助けとなった。ここにあらためて感謝したい。


採択案件紹介

以下に本年度の新規採択案件11件のうち、3つの助成領域からプロジェクトを1件ずつ、また継続案件3件から1件を、それぞれ紹介する。

1. 高齢化社会

束田 吉子
「高齢者のヘルスケアに関する効果的な地域ネットワークの構築―タイ、チョンブリ県、サンスク町と長野県佐久市との建設的な施策の検討」(380万円)
地域健康医療の促進で実績のある長野県佐久市の自治体と佐久大学看護学部、バンコクの東部100キロに位置し、工業団地の造成が急速に進むチョンブリー県のサンスク町の自治体(町長を含む)と、同県に位置するブーラーパー大学(東方大学の意味)が協力して、「地域レベルでの高齢者の健康増進と疾病予防」の方策について、相互の経験と知見を交換するというプロジェクトである。

チョンブリー県の高齢人口(タイは60歳以上)は、1990年7.4%から2010年9.7%に上昇したものの、バンコク首都圏の12%に比べると、まだその比率は低い。その一方、同じ20年間に、同県の世帯の平均人数は4.1人から2.5人に縮小、単独世帯比率は9%から32%に上昇、チョンブリー県以外で生まれた人口の比率も18%から40%に急上昇するなど、工業化に伴う社会変動が顕著な地域である(2010年人口センサスより)。今後、高齢化社会は重要な政策課題になることが予想される。本プロジェクトの代表者は国際看護交流協会で22年間働いており、国際経験は豊かである。また、日本とタイの双方で準備がすでにできており、調査の内容・提言の仕組み・役割分担も明確である。日本の経験をタイ住民に対して、紙芝居、指人形、寸劇などを使って発信していくという方法もユニークであり、具体的な成果が期待できる。

2. 多文化社会

Aoki Rieko
「Building Inclusive Community Health Care System: Lessons Learned from Good Practices in Thailand and Japan」(550万円)
本プロジェクトは「高齢化社会」と同様に、日本とタイの間の共同作業であり、目的は「外国人移住者に対する包摂的なヘルスケア」に関する調査と政策の提言である。なお、タイでの外国人移住者は推計170万人を超えるミャンマー、ラオス、カンボジアからの労働者を対象とし、日本の場合は、タイ人を含むアジアからの外国人労働者を対象とする。

タイ側の担当者は、外国人労働者のHIV/AIDSの問題に長く取り組んできたNGOグループの「Raks Thai Foundation」、日本側の担当者は、外国人移民のHIVや健康管理の問題に取り組んできたNGOグループの「CHARM」であり、双方とも本プロジェクトのテーマについて実績があるだけでなく、調査の実施や政策提言において、両者にシナジー効果を期待することができる。また、タイでは外国人労働者の多い6県での聞き取り調査を企画し、日本では東京、横浜、長野、兵庫、京都などでの聞き取り調査を企画している。成果の発信についてもビジュアル化に重点を置いている。ただし、タイと日本の両国で確認された「グッド・プラクティス」の事例が、果たして環境や条件の異なる日本もしくはタイのモデルにそのままなるのか、という意見が選考委員会では出された。

3. 身近な環境を巡る合意形成

Nguyen Thi Hoang Lien
「Review of Renewable Energy Practices in Philippines and Vietnam: To Develop the Renewable Energy Introduction Metrics for Rural Communities 」(580万円)
本プロジェクトは、ヴェトナム、フィリピンにおける再生可能エネルギーの実施状況に関する共同研究である。ヴェトナムでは、ホアビン、フーイェン、ラムドンの3省におけるバイオガスと小型水力発電の事例を、フィリピンでは、オーロラ、レイテ、イロイロの3州でのバイオマス(ココナッツを利用)と太陽光発電の事例を、それぞれ取り上げている。カウンターパートナーは、日本の大学や国際機関との共同事業の経験もある。

特定の省や州におけるコミュニティ・ベースの再生可能エネルギーの実施を調査対象に選んでおり、目的や内容が明確であるだけでなく、メンバーの構成もしっかりしている。また、ヴェトナムとフィリピンの比較という切り口も新鮮である。なお、成果の発信についての方法や予算の裏付けが申請段階では十分ではなく、本案件を採択する場合には、改めて申請グループと協議することが望ましいという意見が選考委員会で出された。

4. 継続案件

安里 和晃
「高齢者ケアの供給系の再検討と多国間枠組みに向けたネットワークの形成」(1,480万円)
本プロジェクトは、タイ、インドネシア、ヴェトナム、台湾、中国を対象とし、高齢者のケアにおける国際的な人材活用(外国人看護士の活用を含む)の可能性と方向性について検討する、日本にとっては喫緊の政策課題を含意するプロジェクトである。

本プロジェクトには、日本介護福祉士会、介護福祉士養成施設協会、日本ホームヘルパー協会の役員もメンバーに加わっており、日本側の代表者(京都大学の安里和晃氏)、タイ側の代表者(チュラーロンコン大学大学院人口学研究科の研究科長であるウォラウェート氏)、ヴェトナム側の代表者(国家経済学大学のロン氏)たちとの緊密な協力のもと、精力的に訪問調査や報告会を開催してきた。

また、日本の専門家をアジア諸国の現場に引率して実態を視察するなど、知見の交流にも多くの時間とエネルギーを費やしている。さらに、タイ側代表のウォラウェート氏と人口学研究科の学者・研究員一同は、現在、人口学研究科の大規模プロジェクトとして、チュラーロンコン大学創立100周年記念学術推進計画(今後の100年を見据えたタイ社会の未来像を描くプロジェクト)を念頭においた企画を構想しており、そうした企画は、「未来を見据えた日本とアジアの共生関係」を目指すトヨタ財団の今回のプロジェクトとのシナジー効果も期待できる。

おわりに

紹介した案件が示すように、今回、候補プロジェクトの採択にあたっては、第一に、申請されたプロジェクトが、国レベルでの政策や事業のサーヴェイにとどまらず、特定のコミュニティにおける具体的な実践活動にどれだけ密着しているのか、その点に判断の基準を置いた。第二に、そうした地域社会レベルでの経験と知見を、どのような方法で発信し、また相互に交換し共有しようとしているのかについても、重要な判断材料とした。この2つの基準の設定は、学術研究を目的とする文部科学省や日本学術振興会(JSPS)の科学研究費事業とは一線を画し、未来志向的で、より実践的なプロジェクトを目指すトヨタ財団の趣旨を念頭に置いた結果であることを、最後に指摘しておきたい。

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