公益財団法人トヨタ財団

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国際助成プログラム

2013年度 国際助成プログラム 選後評

選考委員長 三好 皓一

2013年度「東南アジア新興国と日本の共通する課題:学びあいを通じた解決へ」

 トヨタ財団は、1974年の設立以来東南アジアを中心に国際助成を展開し、また、2009年度からは「アジア隣人プログラム」を設定しアジア各地での課題解決を目指した実践的なプロジェクトを助成してきた。このような中、近年、アジア各国では急速な経済成長が続いており、東南アジア各国の中からも新興国化する国々が出てきている。それらの国々では環境汚染や高齢化など、日本と共通する課題を持つこととなってきた。このようなアジアと日本の変化を踏まえ、2012年度は従来からの実践的なプロジェクトの支援から一歩踏み出し、これらの活動の経験と蓄積された知見をもとに新たなアジア隣人と日本の関係や互いに必要なものを提示することを目的に「未来への展望」をテーマとして「アジア隣人プログラム」の1年限定の特別企画を行った。本年度は、このような考え方をさらに一歩進め、プログラム名称を「アジア隣人プログラム」から「国際助成プログラム」に変更し、期間を1年、対象地域を東南アジアの4か国と日本に限定した試行的なプログラムとして、これらの国々と日本に共通する課題に着目し、既に存在する事例や知見に基づく政策提言型の活動を助成するパイロット・プログラムを実施することした。
 本プログラムは、プログラムを通じて、それぞれの国における共通の課題の所在と、その解決に向けての方策を互いに学びあいながら、共に考えていくことを目的としている。本プログラムを通じて日本とアジア各国が互いの実像を理解し、従来の「支援者―受け手」という関係に替わる、未来に向けた新たなパートナーシップのありかたを築いていく基礎となることを期待するものである。共通するテーマとしては、「高齢化社会」、「多文化社会」、及び「身近な環境をめぐる合意形成」の助成領域を設定した。

応募状況

 本年度の応募件数は175件(2012年度は106件)となり、数の上では昨年度より65.1%の増加となった。応募の傾向としては、外国人の応募件数が132件、日本人の応募件数が43件で、外国人の応募が約4分の3を占めるものとなった(2012年度は日本人56件、外国人50件)。これは本年度のプログラムが、特定のプロジェクトを対象とするものでなく、東南アジアと日本に共通するテーマについて、既存の事例や知見を取りまとめ、政策提言を作成・普及することを目指すという本プログラムの特性に起因すると考えられる。
 助成領域では、「身近な環境をめぐる合意形成」が92件ともっとも多く、次いで「多文化社会」に45件、「高齢化社会」に38件の応募があった。

選考結果

 選考委員会では、テーマとの適合性、政策的・学術的可能性、政策提言としての志向性、効果の可能性、政策提言の広がり、他の政策提言との関わり、提言作成の実現可能性を重視して、総合的に評価を行った。特に、既存の事例や知見を取りまとめ、アジア各国や日本にとっての学びや新たなパートナーシップの可能性を提示し得る、また併せて、各政策提言が日本とアジア諸国において現在、あるいは近い未来に共有される課題となり、相互に作用し相乗効果を生み出し得るような取り組みを高く評価した。その結果、助成候補として20件を採択した(助成対象一覧)。応募総数から見た採択率は11.4%となり、昨年度の17.9%を下まわった。
 助成領域では、「身近な環境をめぐる合意形成」が8件、「多文化社会」に6件、「高齢化社会」に6件となった。また、代表者が外国籍の案件が12件である。
 採択されたプロジェクトは、東南アジア新興国と日本に共通する課題を踏まえた既存の事例や知見にもとづいた政策提言の作成・普及を目指すものであり、各国や日本にとっての学びや新たなパートナーシップの可能性を提示し得るものと考える。しかし選考過程の中で、特に「身近な環境をめぐる合意形成」において、過去の事例や知見に対する活用に具体性が欠けており、政策提言作成の部分に弱さがみられるとの指摘もなされた。既存の事例や知見を取りまとめ、それぞれの政策提言が日本とアジア諸国において現在、あるいは近い未来に共有される先駆的な政策提言として広く発信されることを期待したい。
 なお、財団のプログラム・オフィサーは、プログラムの意義の説明、プログラムの応募の発掘や相談、プロジェクトについての追加資料の取集めなど、本プログラムにおける助成プロジェクトの選考の大きな助けとなった。ここにあらためて感謝したい。

採択案件紹介

 以下に本年度の採択案件のうち、各助成領域からプロジェクトを一件ずつ紹介する。

1. 高齢化社会

スワンラダ・ウォラウェット(チュラロンコン大学人口学研究所)
「タイにおけるコミュニティを基盤とする高齢者の長期ケアに関する総合的枠組み」(260万円)
 本プロジェクトは、地域コミュニティの保健ニーズ、信念、価値観を重視した総合的な地域密着型高齢者ケアについて、タイの経験をもとにベスト・プラクティスを発掘し、政策提言としてのガイドラインを提示することを目的としている。また、ガイドライン作成に加えてより良い高齢者介護の管理・実施のための対話の機会をコミュニティや関連政府機関に提供することによって、地域密着型高齢者ケアを発展させることを期待するものである。タイにおいて高齢化は緊急な課題として認識されるようになってきており、本プロジェクトはコミュニティによる高齢者の総合的支援枠組みの実現可能性をその社会制度や社会環境の中で真摯に追及するプロジェクトであり、今後の参考となる時宜を得た有意義な試みであると考える。また、本件プロジェクトによる総合的な地域密着型高齢者ケアにかかるタイの経験が共通的課題として適切に位置付けられ、他国の参考になることを期待したい。

2. 多文化共生

吉富志津代(ワールドキッズコミュニティ)
「外国人児童生徒の言語形成を保障するバイリンガル教育環境推進のための政策提言」(240万円)
 本プロジェクトは、兵庫県でNGOなどが先導し実施した母語教育支援センター校などの経験をもとに、日本の公立学校に通う外国人児童生徒が学校教育を通して理解力・思考力・表現力を不足なく養っていけるように、一人一人の言語習得状況を踏まえ、各自の段階に応じた日本語と母語の二つの道筋を考慮した学習指導を可能とする教育制度の確立を目指すものであり、第一義的には兵庫県に、ひいては、県外での展開を目指し、政策提言を取りまとめることを目的とするものである。また、政策提言の配布、啓発用DVDの作成、多言語への翻訳などにより、政策実施の必要性を、教育関係者、日本語を母語としない児童生徒の保護者をはじめ広く社会に発信し、普及活動に努めることとしており、本課題に示唆を与え得るきわめて重要な取り組みと考える。また、実践事例をもとにした具体的なプロジェクト活動となっており、今後の発展性を期待し得る。

3. 身近な環境を巡る合意形成

グイ・ティ・カイン(緑のイノベーションと開発センター (Green ID))
「ヴェトナムにおける持続可能なエネルギー開発の解決策としての地域エネルギー計画アプローチ-多様な関係者間対話と政策提言を通じた合意形成過程の成功例から」(240万円)
 本プロジェクトは、ヴェトナムにおける地域コミュニティと地域関係機関による再生可能エネルギーに焦点を当てた地域エネルギー計画の策定にかかる合意形成過程の事例をもとに、また、タイにおける地域エネルギー計画の経験に基づく知見を活用して、各省としての省エネルギー計画の策定及び国としてのエネルギー計画枠組みの構築に資する政策提言の作成を行うことを目的とするものである。本プロジェクトは、国に依存する傾向にあるエネルギー政策の策定を、省レベルと国レベル、また、地域コミュニティのステークホルダーを巻き込むことによって政策の策定過程を統合し、地域エネルギー計画にかかる合意形成を目指す試みであり、合意形成過程についての多くの示唆を得られる、将来の発展性を期待し得るプロジェトであると考える。また、合意形成過程におけるビデオ・クリップ、政策提言パンフレット、また政策対話などの活用について有効な示唆の提供を期待し得る。

おわりに

 本年度の国際助成プログラムは、日本とアジア各国が互いの実像を理解し、従来の「支援者-受け手」というとらえ方を修正するよい機会になるのではないかと考えている。日本とアジア各国における発展に伴い、都市も農村も日本国内とアジア各国で変わらない部分が多くみられるようになってきている。アジアの問題を日本の問題として、また、日本の問題をアジアの問題としてと、また、それぞれの問題を重ね合わせ包括的にとらえる必要が出てきている。本年度の助成領域として取り上げた、「高齢化社会」、「多文化社会」、及び「身近な環境をめぐる合意形成」は、アジアと日本に共通する多くの課題を含んでいる。選択された各助成プロジェクトは、個々にその効果を発揮することとともに、また、共通の課題の中で相互に作用するプログラムの要素として包括的にとらえることで、より大きな効果を相乗的に発揮することを期待している。このように日本とアジア各国に共通する課題について過去の事例や知見を取りまとめて政策提言として共に学びあい、また、発信していくことによって、日本とアジア各国の未来に向けた新たなパートナーシップのありかたを築いていく基礎となることを強く期待する。

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